溺れる捨てられた私


目覚めた朝は夏の終わりが近づいているのか、少し肌寒さを感じた。

『昨日もあまり眠れなかった。』眠い目を擦りながらゆうのお弁当を作るためにキッチンに向かった。冷蔵庫の中身を確認してお弁当の内容を考えていく。

『んー頭も働かない。適当に生姜焼きでいいか。』おかずを何品も作るのが面倒だった私は丼ものにすることにした。ゆうは私より30分以上遅く起きるので部屋にはいびきが響き渡っていた。

ある程度お弁当もでき朝ごはんの用意に取り掛かったころ足音は聞こえてきた。

「おはよーいい匂い。」頭を掻きながらトイレに向かっていった。

「おはよう。朝ごはん置いとくね。」背中に向かって話しかけたが返答はなし。





              ーいつも通りの朝は当たり前にー




ゆうが仕事に出かけた後、私もパートに向かうために自分の準備を進めた。家事を進めていく中で昨日の夜のことを走馬灯のように頭の中に駆け巡っていた。

『一晩経って思ったことは、ゆうに悪気はないし、仕事が忙しくて疲れてるから夜は寝てしまうということ。ん?それってもうどうしようもないから詰んだのでは。』いろいろ考えても同じことしか考えられず結果的に相手待ちということになる。洗濯物を干しながら外は今日も暑いなと何もないことを考えて逃げたくなった。

『暑そうだな。去年はゆうの家に行って大学に潜入したりして盛り上がってたっけ。夜の営みもしてたし1週間過ごして何回したっけ。あーもう頭の中は性のことばっかりだな。』何をしてても抱かれていないことばかり考えてしまい重傷だなと自分に突っ込みを入れた。『よし、仕事に向かうか。』



            ーもう誰でもいいのかなー


仕事は平日にも関わらず忙しく休む暇もなかった。休憩に入っていても電話がなり、レジに並ぶひとが多く呼び出されて休憩どころではなかった。

「お疲れさまでした。お先に失礼します。」やっと終わりの時刻を迎えるころにはお客さんもまばらになりお店も落ち着いていたので、無事に時間通りあがることができた。『今日はコロッケにしよう。ジャガイモはあるから卵を買って帰って。』夕飯の買い出しをするためにスーパーに向かって自転車を走らせた。ついたスーパーはいつもお世話になっている場所で、安くて重宝している。かごに卵とひき肉とお酒を入れてレジに向かった。レジをすませ自転車に乗り帰宅した。「ただいまーっていっても誰もいないけど。ちょっと休憩して夕飯作ろう。あっ洗濯物を取り込まなきゃね。」ソファに腰を降ろすと根が生えるので先に洗濯物を取り込む。取り込むときに虫がついていたりするので先に払ってから取り込んだ。『ふーやっと落ち着いて座れる。ここから夕飯を作って、ゆうの帰りを待って夕飯食べて片付けて、やることまだまだいっぱいあるな。』やっと落ち着いても考えることはゆうのことと家事のことで不満もあるが、ゆうのことが好きなのかと思わされる。





             ー満たされぬ一方通行ー



携帯でゲームをしていると流れる広告にふとまた目が留まった。出会い系サイト。可愛い名前ではあるが中身は男女の出会いを生業としている。『ちっちるか。可愛い名前の出会い系サイトだけどね。前もこの広告見たけど私にしろってことなのかな』ふとそんなことを思いダウンロードの画面までうつった。『いやいや、ね、一応婚約している身だし浮気はよくない浮気はね』お兄ちゃんとの一見は浮気にカウントされていないので今まで浮気はしたことがない。思いとどまり画面をゲームに戻してもう少しだけゲームをすることにした。

ふと時計を確認すると18時を目前に迎えていたので、キッチンに立ち夕飯の準備を始めた。『今日は少し遅くなるって言ってたから先にお味噌汁作ってからの揚げたてを食べれるようにコロッケを作って。』料理の手順を確認しながら鍋に水を入れお味噌汁の具材を冷蔵庫に探しに行った。




          ーがちゃ、えっ?まだ18時20分だけどー



ちょうどお味噌汁が作り終わりその間にもジャガイモを蒸かしたりしていた時、突然玄関が開く音がした。「ただいまー今日も暑くて疲れた。」玄関で靴を脱ぎカバンを投げて上がってきたのは仕事から帰ってきたゆうだった。「えっ?今日は残業で少し遅くなるって言ってなかった?」携帯をみても早く帰る連絡はなかったのでいつも通りに帰ってきたゆうに驚きを隠せなかった。「あー言ったかも。ごめん、残業なかったんだよね。」悪びれた様子はなく適当に謝りシャワーを浴びるために寝巻を取りに向かった。「そういうのは連絡してくれないと夕飯まだできてないから19時過ぎるよ」揚げたては食べれるかもしれないがゆうがシャワーから上がっても少し待ってもらうことになりそうだ。「えーお腹すいたのに。じゃあシャワー言ってくる。」文句を言いながら洗面所へ行って少しするとシャワーの音がしていた。『いや、帰る前に連絡すればよかっただけやないの?』考えても仕方がないので料理に戻った。







           ー誰のために、考えて、行動しているのかー



予定通り19時過ぎて料理は出来上がった。その間ゆうはテレビをつけてソファで携帯ゲームをしていた。「できたからごはんとかよそって。」メインのコロッケをテーブルに持っていき、声をかける。「んっわかった。」一緒に住んでまだ短いはずなのだが、もう熟年夫婦みたいな会話に聞こえる。「いただきまーす。」自分のごはんをよそって、自分の箸を持ってきて先に食べ始めるゆうをみてなんとも言えない気持ちになった。『そりゃ自分のことは自分でしてって言ったけど、こういう場合は一緒に食べるから私の分のも用意して待ってたりするものではないの?』思ったことはあったが昨日のことがありすぐには口にできず、自分もご飯をよそって、お味噌汁を用意し食卓についた。





            ー自分のことは自分でするけどもー



夕飯の間は特に会話もなく、テレビを見て進んでいく。「美味しい?」なにも感想がなかったのでどうなのか気になった。「ん?うん。」テレビからは視線を外さずに回答した。『私達って一緒に住んでるんだよね?これなら住んでないときの方が会話してた気がするよ。』小さいため息をついてまた夕飯に戻った。「ごちそうさまでした。」ゆうは自分の分を食べ終わると携帯に視線をうつし、またゲームを始めた。私は空いたお皿をシンクに運び、洗っていく。『最近よくゲームしてるな。食器、たまには洗ってくれてもいいんだけどな』不満はたくさんあったが、昨日のことを引きずり言えなくなってしまっていた。食器を洗っている間に現実逃避をしたくなったが、どうせ性的なものしか考えられないと思った私は無心で洗うことにした。やっとの思いで片付けが終わり、私もシャワーを浴びるために寝巻を取りに行く。「おっいいね。おぉ!!」ゆうはまだゲームをしているのか楽しそうにしていた。




             ー同じ屋根の下でも一緒にいないー




シャワーから上がり寝る準備を一緒にしていく。いつもは上がった後ソファでくつろぐのだが、今日はそんな気分にはなれなかったので、もう寝る準備をすることにした。「先に寝るね。おやすみ。」布団のある部屋に向かう前にゆうに声をかけた。「おっ。おやすみ。」時間を見ていないのか何も疑問に思わずに視線は携帯でお休みを言う。『私という存在は認識しているけど、大事なのは目の前のゲーム。仕事と私はどっちが大事なの?みたいな感じだな。』ふと世の夫婦がほぼ通るであろうどっちが大事なの?の気持ちがわかった気がして、そりゃあまりに相手にされないと聞きたくなるよねと思っていた。布団に寝転がり、携帯を開いて自分もゲームをすることでゆうと対等でいる気になることにした。『ゆうは疲れてるから自分の時間があるときは自分に使いたい。私は平日にパートがなければ自分の時間もあるし、ゆうがなにも話しかけてこなければ私も好きなことができる。でも最近はゆうがゲームばかりでほぼ会話なし。』ゲーム画面とにらめっこしながら今の寂しさの原因をくるくる考えていた。




              ー私の存在意義は家政婦なのか?ー




「ちゃらん!あなたも素敵な出会いを。」ゲームからまた例の出会い系サイトの広告が流れてきた。『またこの広告か。浮気はだめ。浮気ってどこからなのか。女性として見てくれる男性と一緒の方が幸せなのでは?』悪魔のささやきのように何度も流れてくる広告に誘われて、今の寂しさにつけいるその出会い系サイトに登録をしてしまった。『お金がかかるわけではないし、いい男性がいても少しお話しするだけ。それは浮気じゃないよね。ゆうが悪いんだよ。可愛いとか褒めてくれなくなったし。』私は一生懸命に正当になるように言い訳をして写真を選び登録を済ませた。












        ーこれがきっかけとなり、ある男性と出会うことになるー


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