靄のかかった景色


現実逃避から一時戻される。

「さや!聞いてる?爪切りどこ?」ゆうはソファの上から食器を洗っていた私に問いかけた。「今食器洗ってるの見えない?爪切りは洗面所でしょ。」一度振り向きそう答えながらため息をついて止まっていた手をまた動かし始めた。

無事に月1の成林家訪問から帰宅しお昼を食べた食器を片付けていた。

朝から嫌なことがあり一時中断していた現実逃避をまた開始しながら帰宅した片付けをしていて現実に引き戻された今、股の間の違和感に気づいた。

『やばっ。また思い出してたな。最近してないから余計思い出し方が頻繁だ』

最近ゆうとの熱い夜を過ごしていない。もう同棲して4ヶ月になるが遠距離で付き合っていたころの方がしていた気がする。「あったー。これからどうする?でかける?」爪切りをしながらまだ食器を片付けている私に向かって出かけるか聞いてきた。「ちょっと待っててもらっていい?片付けてそのあと洗濯もしてお泊りグッズを片付けてっていろいろしなきゃいけないんだから。」ゆうも聞こえてるのか聞こえていないのか何も言わずに爪切りを再開していた。




         ー出掛けたいなら洗濯ぐらいしてくれてもいいのにー





やっとすべての片づけを終えゆうの方を見るとソファで寝ていびきをかいていた。

『はあ。結局出掛ける気があるのかないのか手伝わないしわからんな。』

私は寝ているゆうを起こさず最近読めていなかった本を取り出し読むための準備として珈琲を入れにキッチンにいった。

しばらく本を読みながら珈琲を飲んでいたらゆうが起きてきた。

「んーーー!ふわぁぁ。寝てた。」大きなあくびをして伸びをしながら起きたゆうはトイレに向かった。私は特に何も言わずに一度目視して目を本の方に戻した。手を洗う音がしてきたので本を閉じ立ち上がった私はこれからどうするのか聞きに行った。「出掛けるの?出るならカバン取ってくるけど。」

「そうね。出ようか。夕飯の食材も買い出しに行かなきゃだしね。」頭を掻きながら私を素通りしてソファに腰を降ろした。「出掛ける気はあるの?もう出るなら出るよ。ゆうが寝てる間に片付けやらして待ってたんだから。」カバンを取り財布や携帯があるかを確認しながらゆうに文句をいった。「わかってるよ。行く行く。」やっと立ち上がった重い腰は玄関へと向かい靴を履いて私の後を追った。




           ー本当に自分勝手なんだからー



スーパーについた私達は夕飯の買い出しを始める前に行きたかった雑貨店に入った。「これいいなー。前から欲しかったんだけど一度持ち帰って帰ったんだよね。」手に取ったのは前から欲していたポーチをゆうに見せて同意を求めた。「可愛いじゃん。いくらなの?」ゆうはこういう時に反応しないと怒られるということをよくわかっているからかきちんと答えてくれた。「700円。ちょっとするよね。」昔から好きなキャラクターでカラフルな見た目。小さめなので絆創膏やリップなどを入れる程度のものだ。「その大きさで少し高いけど買えないものじゃないし気に入ってるなら買ったら?」そう言った後は自分の気になるものがあったのかこの場から去った。

『そうだなー。じゃあちょっと頑張ってる自分にご褒美でここで1000円ぐらい買っちゃうかな。パックとか最近してないし。』ほぼ一目ぼれのポーチを手に取り購入を決意した私は1000円になるように最近めっきりしなくなったパックコーナーを物色しにいった。






          ーいつの間にか一緒なのに一緒じゃないー




お互い購入したものをもって次は夕飯の買い出しに向かった。

「あれ?何買ったの?」カバンを持つタイプではないゆうの手に持たれていたビニール袋には小さなものが入っていた。「これ?100均でのり買ってきた。仕事でのり付けしなきゃいけないからスティックのり。」手に持ったビニール袋を顔の前にぶら下げて説明しながら振り回していた。「そっか。さて、夕飯は何にするかな。」夕飯はいつもその日その日に考えるタイプなので並べられた食材を眺めながら考えていた。料理は得意ではないので数少ないレパートリーで考えるんだけど。「今日は唐揚げが食べたいな。あとはおつまみ買ってお酒も買って。」かごを持ってきて私のところにきて今日のメニューの希望を言っていた。「唐揚げか。揚げるの大変なんだよね。まあたまには作るかな。キャベツ買って・・・・ん?」キャベツを手に取って後ろにいるはずのゆうに預けようとしたら空振りし危うく落としそうになったキャベツを両手に抱えながらいないゆうを探して見渡した。『あっ!あんなところに。どうしていつもいつも勝手にどっか行くのかな。』見つけたゆうを追いかけてキムチを見てかごに入れようとしていた手を確認した。「ゆう!どうして勝手に動くかな。危うくキャベツ落とすところだったじゃん。」ため息をつきながら持っていたキャベツをかごに移す。「あーごめん。おつまみはカクテキにしようと思って。さやも食べるでしょ?」悪びれる様子もなく適当に謝り自分の食べるおつまみを進めてきた。「食べないよ。カクテキ好きじゃないから。」




         ー相手のことを考えているようで空回りー




無事に帰宅しご希望の唐揚げを堪能した夕飯を終えた。その後も晩酌をするゆうはテレビを見ながらカクテキをつまみに缶のハイボールを飲んでいた。

「私食器片づけて明日仕事だからお風呂入ったら寝るから残りはゆうが片付けてね。」食器をさげながら片づけをしようと水を出しながら話しかけたが返答はない。「聞いてる?」もう一度きちんと顔を見て問いかけた。

「聞こえてるよーわかった。」テレビが面白いのか爆笑しながらまたも適当に答えた。

『聞こえてるなら返事したらいいのに。なんだか一緒に住んでるのに一緒にいない感じ。』私は同棲してからお互いが同じ屋根の下にいるはずなのに一人暮らししているような感覚に陥っていた。

お風呂から上がってもゆうはテレビを見ていて晩酌を継続していた。

「まだ飲んでんの?ゆうも明日仕事でしょ?」この時点ですでに22時前だったのでまだお風呂にも入っていないのを心配した。

「大丈夫。今から入るよー。もうこれ飲み終わってるしね。」テレビに顔を向けたままで私にまた適当に答えてきた。




              ー最近適当だなー



先に布団に入った私はごろごろしながら漫画を読んでいた。畳の部屋に薄い布団なのでかなり固い。私は夜型なので早く寝ることはないのだが1時を過ぎて寝ることもない。朝はかなり苦手なので休日は用事がない限りは昼前まで寝てるか起きていても布団から出ない。大学のころバイトもなく授業もない遊びにも行かない日はベットから降りるのはトイレのみで一日ベットで過ごすのが幸せだった。食事は起きた時点でベットに持ってきて常備するほどだった。

現在23時38分。ゆうがシャワーからあがった音がした。

『どうせ今日もないんだろうからもう待たずに寝ちゃおうかな。少し早いけど。』

ここに越してきて本当に一回も夜の営みをしていない。毎日お互い一緒にはいるけどいないみたいな。確かに私は一人の時間も必要だ。何か用事をするのに干渉されたくもないのだが、あまりにも干渉されなさ過ぎて少し寂しい。ゆうは社会人になって仕事に慣れるために日々忙しくしている。そのためか夜は早く寝ている。

「まだ寝てないんだ。俺も寝よ。おやすみー」寝る準備を終えて布団に入ったゆうは私とは逆の方を向いて寝ようとしていた。「私も寝よう。おやすみ。」




          ー待って損した。今日もない。ー



結局一緒に寝に入ったが先に眠りについたのはゆうの方だ。豪快にいびきをかいて気持ちよさそうに寝ている。

『寝るの相変わらず早いな。あー生理前かな。もやもやしちゃうな。』

いやそもそも4ヶ月以上していないんだからもやもやもする。以前すみれと話した中で男性は溜まるから出さないと痛くなるって言っていたが



         ーということは一人でしているのか?ー



ふとそんなことを考えていた私は寝れなくなってしまった。

『一人でしてる風な感じはなかったけどAVは見てるのか?ということは私に魅力がなくなった。最近下着を新しくしていないから飽きたとか?お風呂も別々だし、一緒に住んだら洗濯物見てしまうから萎えたとか?」

どこをとっても自分が悪いという結果に陥ることにため息をつき解決策を見いだせずにまたもやもやが始まった。自分は一人でしないのでもやもやしたときに何をどうしたらなくなるのかがわからない。

この日は精神的にも性欲的にも、もやもやして寝れずに深夜1時を回ろうとしたとき記憶がなくなった。






           ー明日すみれに相談しよう・・・・・ー




                                ZZZZZ





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