第47話 様子見した結果 ※ストランド伯爵家当主視点
どうして、こうなってしまったのか。静かな屋敷の中で一人、ストランド伯爵家の当主は深く後悔していた。
彼は、皆に嫌われたくないと思って干渉を避けてきた。
きっと良くなるはずと信じて、娘達や妻には何も言わずに、静かに見守り続けた。その結果、孤独感に襲われる伯爵家の当主。
長女のナディーンは旅行と称して屋敷から出ていき、妻も一緒に行ってしまった。あれから一年以上が経ち、彼女達は一度も帰ってきていない。
何度か手紙を送ってみたが、簡単な近況報告の手紙が返ってくるだけ。向こうで、楽しく過ごしているらしい。そしておそらく、もう屋敷には帰ってこないような気がしていた。
それも仕方ないだろう。許可してしまったから。あの時、駄目だと言っていたら、今頃はどうなっていたのか。現在も、皆で一緒に屋敷で暮らしていたのか。だけど、旅行することを許さなければ娘から嫌われて、雰囲気は最悪になっていた。
そう予測して、当主は娘の旅行を許可した。
あの時のナディーンは、外に出たがっていた。婚約を破棄されて、傷心していた。旅行を許可する以外に選択することは出来なかった。引き止めることなど不可能だ。嫌われてしまうから。それは避けたかった。
しかし彼女の旅行を許可した今も、最悪だと思っていた状況とさほど違いはない。結局、屋敷で孤独を感じているのだから。
妹のメイヤは、好き勝手に生きていた。最近はよく、婚約者となったリカード王子に会いに行っているようだ。もうすぐ結婚式を行う予定だが、色々と不満もあるようで、文句を言っている。本当なら、当主として諌めるべき。だが、それも出来ない。
娘の教育は全て妻に任せていたから、何と言って注意をするべきなのか分からず、何も言えない。ここでも、嫌われたくないという気持ちが強く働いた。
使用人達が入れ替わったのも、色々と変わってしまった大きな要因。以前は、皆の雰囲気が明るかった。
モーリスの商会が派遣してきた使用人達は能力が高くて、しっかり仕事を処理してくれて優秀だった。しかし、彼らの対応は事務的で、仕事中は淡々としていた。
それが、使用人としての普通なんだろう。けれど、ナディーンが居た時には気楽に過ごすことが出来ていた。今と昔を比べると、昔のほうが過ごしやすかった。
今は、とても窮屈だった。娘のナディーンが居なくなるだけで、こんなに雰囲気が変わってしまった。
どこで選択を間違ってしまったのかと、伯爵家の当主は後悔し続ける。
干渉するのを避けてきたのは、放置していたのと一緒。嫌われないように、良い父になろうと思っていたが、ただ干渉しなかっただけ。
その事に、彼は気付けなかった。
何をするのも全てが手遅れなのに、目を逸らし続けてきた。昔に戻って欲しいと、何も言わずに願い続けるだけ。
娘から貰った万年筆を眺めながら深く後悔して、昔のことを思い出しながら当主は涙を一粒だけ流すのだった。
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