第21話 浮気していたのは誰?

「皆様、落ち着いて! あれは私が発明した、過去の出来事を記録して映し出す魔法です。何の危険もありませんから、安心してくださいませ」


 パーティーの参加者たちが上を向いて騒然としていたので、私は簡単に説明した。すぐに彼らは落ち着いて、映し出された過去を興味深そうに眺める。


 まず最初に映し出したのは、私とローワンが料理について話し合っている場面。


 料理の新しい技術について議論したり実践した様子を、研究のために記録していたものだった。それを見せて、他の皆に事情を説明する。


「そこに居るメイヤが話していた通り、確かに私は料理人の男性と一緒に居ました。けれど、ご覧の通り料理について学ぶために会っていた。ただ、それだけです」


 上空に映し出された場面は、普通に話しているだけ。どう見ても、男女の関係には見えないだろう。


「貴方は、どう思いますか?」


 近くで立っていた、貴族の中年男性に尋ねてみる。彼は、こう答えてくれた。


「うん。二人が浮気しているとは思えないね。ごく普通の令嬢と使用人という関係にしか見えないかな」

「ありがとうございます。貴女は、どう思いましたか?」


 もう一人、近くに立っていた別の女性に意見を求める。とある夫人は少し考えて、思ったことを教えてくれた。


「私も、あの二人が男女の仲には見えないわね。浮気しているとは思えない。貴族の娘が料理しているのは、ちょっと不思議な光景だと思うけれど、それ以外は普通よ」


 何人かに意見を聞いて、浮気しているようには見えないと語ってもらった。


 この記録だけじゃなく、屋敷で働いている他の人達の証言を集めたら、すぐに私が浮気しているなんて疑念は消え去るだろう。


 過去にあった出来事を記録して映し出すことが出来る新しい魔法について、会場に居る参加者たちに理解してもらえたようだ。


「それでは、もう一つの過去を皆様にお見せしましょう!」


 それから私は魔法を使って、別の記録を空中に映し出した。とある男女が、隠れてキスしている場面を記録したものを。再び、会場がザワザワと騒がしくなる。


「なっ!?」


 リカード王子が驚きの声を上げた。上空に映し出された男は、リカード王子だったから。キスしている相手の女は、私じゃない。


「これだけじゃ、ありません」


 リカード王子が浮気していた様子を記録したものを次々と、魔法で空中に映し出していく。


 色々な女性とイチャイチャして楽しんでいる、彼の姿を明らかにした。映し出した記録の中には、二人でベッドの中で交わっているようなものもあった。そして、私の妹であるメイヤがリカード王子と仲良くしている様子も。


「さて皆様、浮気していたのは一体誰なのでしょう?」


 私は、会場にいる方々に問いかける。過去の記録を見た人達は、理解しただろう。本当は誰が浮気していたのか。告発されるべきなのは、誰なのか。

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