第20話 疑う理由

「皆に説明してやってくれ。そこに立っている女が、一体何をしたのかについて!」

「わかりましたわ、リカード様」


 またリカード王子に指差されて、そう言われる。だが、身に覚えがない。私が何をしたというのか。妹のメイヤは何を語ろうとしているのか。


 パーティー会場の真ん中で、皆が聞いているを確認してからメイヤは話し始めた。


「最近、お姉さまは屋敷の使用人たちと異常なほど仲良くなったんですよ。前まで、他人に興味なんて無かった人が突然! 何か、理由があるはずです」


 なんだ、その事か。確かに、未来からの記憶を受け取る前の私は、他人との接触を拒絶していた。それが急に仲良くなって、メイヤには異常な光景に見えたのね。


 しかし、それが一体どうしたというのか。まだ、意味が分からない。


「特に料理人の男性とは、すごく仲良くしていたようです。何時間も部屋にこもって出てこない時もありました! きっと、イヤラシイことをしていたのでしょう!」

「はぁ……」


 馬鹿らしくて、ため息が出てしまう。


 料理人の男性、というのは専属料理人であるローワンのことかしら。二人だけで、部屋にこもっていたような記憶はないけれど。部屋って、調理場のことかしら。


 確かに、何時間か一緒に居たこともあった。だけど、その時には別の人達も一緒に居た。ローワンの弟子や、メイドたちなど。彼らに聞いてみたら、何をしていたのかすぐに分かるはず。ただ、料理の勉強をしていただけ、ということが。


 なんという的外れな指摘なのかしら。


 妹の目撃した情報と馬鹿げた予想を聞いて、私が浮気しているなんて、彼は本気で確信したのかしら。それこそ、信じられない。あまりにも杜撰な告発だわ。


「最近お前は、俺のことを避けるようになった。ズバリ、俺の他に好きな男ができたから。そうだろう! 婚約者が居るというのに、はしたない女だ!」

「料理人の男だけじゃありませんわ。屋敷には他にも男性の使用人が数多く居ます。もしかしたら他の男性とも、そういう行為をしていたのかも……!」

「……」


 彼らの話を聞いていると、頭が痛くなってくる。私が、リカード王子の婚約破棄を阻止しなかったら、こんな事になってしまうのね。


「なんとか言ったらどうだ!」

「そうよ! リカード王子という素敵な婚約者が居るのに、浮気をしていたなんて。お姉さまは、本当に酷い女ね!」


 話を聞いて、ようやく事態を把握することが出来た。リカード王子が疑って、妹が援護して、嘘の話で私を貶めようとしているらしい。


 そっちがその気なら、こちらも遠慮する気は一切無くなった。婚約破棄に向けて、今まで用意してきたものを全て公表することにする。


 今この場で公表するのが、ふさわしいタイミングなのだろう。


 私は、パーティー会場の真ん中で得意の魔法を発動した。撮影機で記録しておいた映像が空中に映し出される。パーティーの参加者たち全員が見えるような大きさで。

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