第22話 都合が悪くなって

「こ、こんなの嘘よッ! お姉さまが、魔法で何かしたんでしょ!」


 妹のメイヤが、空中に映し出したものは嘘だと言って騒ぎ出した。確かに、魔法を駆使すれば偽物の映像を作り出すことも可能。けれど、彼女たちは知らないだろう。


「それなら、もっと詳しく彼の女性関係について説明しましょうか?」


 私は、紙を取り出して読み上げる。その紙には、リカード王子の女性関係について調べた情報が書き記してあった。


「特に親しくしていた女性は、クレリアという女性で」

「くっ!」


 リカード王子が近寄って、私の手から紙を奪い取った。それをビリビリに破って、地面に放り捨てる。書いてあった文字は、もう読めない。


「俺は、知らないッ!」


 都合の悪い話を聞かれないように、証拠を隠滅したようだ。残念ながら、破られた紙は予備だったので、全く問題はない。


 そして、彼の行動が証拠になってしまった。会場にいる貴族達は、リカード王子に疑いの目を向ける。


「知らない、ではありませんよ。ちゃんと貴方の口から、詳しく説明をして下さい。婚約者が居るというのになぜ、あんな事をしたのかについて」

「ぐうっ。……し、知らないものは、知らないッ! 俺は帰る!」

「え? あ、ちょ、ちょっと!」


 会場から逃げるように去っていったリカード王子。困惑しながら、後を追いかけるメイヤ。私は、一人で残されてしまった。


「はぁ……」


 ため息をつき、空中に映し出していた魔法を消した。これで、もう見えなくなる。それから、会場内に居る参加者たちに頭を下げる。


「申し訳ありませんでした、皆様。楽しいパーティーを邪魔してしまって。不愉快な映像を見せてしまい」

「いやいや、君も大変だ。殿下が勝手に暴走して、巻き込まれただけだろう?」


 会場に到着した時に挨拶した、パーティー主催者である貴族の男性。彼が前に出てきて、私の肩を優しくポンと叩いた。苦労を理解してもらったようだ。


「あれは酷すぎるよ」

「次期王が、あれで本当に大丈夫なのか?」

「不安だ」


 あちこちで、リカード王子の振る舞いを目撃した感想を話し合う貴族達。あれは、かなり衝撃的だっただろう。


「何かあれば、我々も今夜のことを証言しよう」

「ありがとうございます。助かります」


 主催者の貴族だけでなく、他の貴族達も次々と立候補してくれる。先程の出来事について証言すると、約束してくれた。貴族の仲間がたくさん居て、とても心強い。


 これから、婚約破棄について正式に陛下や大臣たちと話し合いを進めていく必要があるだろう。その時に、彼らのような貴族仲間が居てくれると思うと助かる。


 突発的だったけれど、十分な収穫を得ることが出来た。協力してくれる貴族の人達と出会えたから。リカード王子との婚約破棄も確定しただろう。


 それから、ついに彼の浮気を他の誰かに打ち明けることが出来たので、私はとてもスッキリした。

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