第04話 婚約者

 朝食の後。私はリカード王子に会うため、王城へ向かうことになった。


 彼と会う約束をしていたらしい。そういえば、婚約していた頃は定期的に会って、仲良くするようにと言われていた。それで仲良くならなかったから、まったく時間の無駄だったけれど。


 その前に色々と確認しておきたかった。けれど、約束があるのなら仕方ないわね。今の私では、王子であるリカードとの約束を断ることは出来ない。


 用事が終わってから、気になっていることを確認しようと思う。




 ヘレンと一緒に馬車に乗って、王城へ向かう。城門に到着すると馬車から降りて、城の兵士に案内してもらう。


 リカード王子が待っているという部屋の前まで、ヘレンも連れて移動する。


「ナディーン嬢をお連れしました」

「少々お待ちを」


 部屋の前で待機していた執事に、兵士が到着を知らせる。執事が取り次ぎ、部屋の中に入っていく。


「わかった。入れ」


 部屋の中から返事があった。入室の許可が出たようだ。


「それじゃあ、ここで少し待っていて。すぐに終わらせてくるから」

「……? はい、お待ちしております」


 部屋に入る前に、ヘレンは待機させておく。私は一人で、部屋の中に入っていく。ちょっとだけ不安だった。


「遅いぞ」

「申し訳ありません」


 部屋に入った瞬間に、少年の声で怒鳴られた。約束して時間通りに到着したはず、だけど怒られてしまう。言い返すのも面倒なので、適当に謝っておく。


 待ち構えていた彼は、ムスッとした表情で不機嫌そう。


 若い頃のリカードだわ。やはり、顔は整っている。美少年という感じだった。ただそれだけ。彼の顔を見ても私は冷静沈着で、平常心を保っている。私の感情に変化は無かった。


 もしかしたら、昔に戻った私が彼と出会うと、再びリカードを愛していたあの頃の感情が蘇るのではないかと思って、少し不安だった。


 自分の感情になんの変化もないので、私は安心する。


「……」

「……」


 リカードと向かい合うように座って、沈黙した。特に話すこともないから、黙っておこう。


 部屋の中が、シーンと静かになった。それでも何も言わず口を閉じて、黙り続ける私とリカードの二人。


 前に座る彼は明後日の方向を向き、私と視線を合わせないようにしている。だが、チラチラと気付かれないように見てくる。隠しているつもりのようだけど、バッチリ気付いている。分かりやすい動きだったから、何も隠せていない。



「今日のお前は、変だな」


 沈黙に耐えられなくなったのか、リカード王子が口を開いた。


「そうでしょうか?」

「あぁ、変だ」

「そうですか」

「……」

「……」


 会話は続かない。私が、彼と話す気が一切ないから。笑顔を浮かべながら、黙って彼の顔を眺めるだけ。


 リカード王子は、焦ったような表情を浮かべている。私の対応に困っているようね。今日は終わりと、さっさと言ってくれたら帰るのに。


「今日は、お前の大好きな魔法について話さないのか?」

「はい。話しません」


 質問に答えると、彼は驚いた顔をした。そして、聞いてくる。


「……なぜだ?」

「報告する内容を用意していませんから」

「な、なに……!?」


 この頃から私は、リカード王子に魔法の研究結果を報告していた。それで彼の気を引こうとして、頑張っていた。


 今回は、リカード王子に関わらないようにするつもりだ。なので、魔法の研究結果を報告するのは止めておく。そもそも、今日は本当に用意していなかった。未来から戻ってきた直後なので、用意する時間も無かった。


 それよりも、今の時代の研究室を確認しないといけない。昔の私は、どうしていただろうか。早く、確認しておきたいわね。この面会も、時間の無駄だし断れるようにしないと。どんな理由で断ろうかしら。


「用事がないのなら、帰れ!」

「わかりました。今日は、これで失礼します」

「……え?」


 彼の許可が出たので、私は立ち上がる。用事が終わったので、さっさと帰ろう。


 唖然としたリカード王子を置いて、私はさっさと部屋から出ていく。

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