第05話 憂鬱な時間 ※リカード王子視点

 今日は、婚約者と会わなければいけない面倒な日だった。面倒で嫌だけど、陛下に婚約相手と定期的に会って話しなさいと言われているので、会わないといけない。


「はぁ……」


 もうすぐ、約束の時間になる。彼女がやって来る。俺の気は沈む。


 婚約相手のナディーンという女性。見た目は悪くないのだが、色々と面倒な女だ。魔法狂いで、あんなに若いのに年老いた魔女のように膨大な知識を持っている。


 なのに子供のように騒々しくて、鬱陶しいと思うぐらい俺にまとわりついてくる。嫉妬深くて、他の女性と話をするだけでも嫌がる。それで、俺の楽しみをことごとく邪魔してくるのも面倒だった。


 なぜあんな女が、俺の婚約相手なのか。どちらかと言うと、彼女の妹であるメイヤという子のほうが気が合いそうだった。


 今からでもストランド伯爵家に言って、婚約相手を交換してもらえないだろうか。そんな事を考えるぐらい、ナディーンと結婚した後の生活が想像できなかった。


 俺は彼女と、本当に結婚するのか……。嫌だなぁ。


「殿下、ナディーン嬢が到着しました」

「わかった。入れ」


 執事が入ってきて、彼女の到着を知らせる。このまま追い返そうかと思ったけど、部屋の中に入ってこいと指示する。


「遅いぞ」


 いつものように嫌味を言う。彼女に嫌われても何も問題ない。むしろ、嫌ってくれと思っていたから、わざと不快な感じを与える言葉や態度をとる。そうすると彼女は何度も謝って、悲しそうな表情になる。それを見て、俺の気が晴れるから。


 それが、いつもの事だった。


 しかし、今日の彼女は違った反応を見せる。


「申し訳ありません」


 軽く頭を下げて、一度謝るだけ。そしてナディーンは、何も気にしていないという表情だった。俺の目の前に座って、微笑んでいる。いつもと違う反応。


 ナディーンは、いつもより落ち着いている。自分より年上の女性を相手にしているような感じ。まるで別人のようだ。


「……」

「……」


 なんだこれは。いつもなら無駄に話しかけてくる彼女が、今日は黙っているだけ。しかも、ニコニコと笑っている。


 いつもと違った意味で、とても居心地の悪い空間だった。黙っているだけなのに、どんどん不安になってくる。もしかして、それが彼女の狙いなのか。


 静かにしていると、彼女は美人な女性だった。あの面倒な性格や行動がなければ、好きになれるかも。いやいや、騙されてはいけないよな。


 これで好きになってしまったら、いつものように他の女との楽しみを邪魔してくるはず。彼女ほど嫉妬深い女なんて、他には居ない。そんな女だということを、絶対に忘れてはいけない。

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