第03話 昔を思い出して

 朝食だ。目の前に並べられた食器に、料理が盛り付けられている。


 テーブルには両親と妹が座っていた。各々が料理を口に運ぶ。


 私の後ろにはヘレンが控えていた。その他にも、多くのメイドや執事たちが並んでスタンバイしている。


 この光景も懐かしい。思い返すと、ずっと昔にあった日常。


 しかし、どの料理も味が平凡ね。一口食べて分かるぐらい、色々と足りない感じがする。食材が悪いとか、料理人の腕が悪いわけじゃないと思う。これも色々な技術の後退が原因のようね。


 私、この時代で生きていけるのかしら。私が満足できるように、アレクグル王国の発展に手を貸してしまいそうになる。だけど今回は、アレクグル王国やリカードには関わらないようにしたい。


 前と同じような、人生を捧げるような生き方はしたくない。だから、しばらくの間は我慢するしかない。


「ナディーン。貴方、今日は随分と行儀が良いのね」

「はい」


 お母様が、私の食事の立ち居振る舞いを褒める。お母様との思い出は、正直あまり無かった。けれど、教育熱心だった人だったのは覚えている。そんな彼女から見て、良い動きだったようだ。王妃として生きてきた記憶があるから、染み付いてしまっているのよね。


「ようやく、殿下の婚約相手としての意識が芽生えましたね。今後も励みなさい」

「……はい、頑張ります」


 今の私は、リカードと結婚するつもりは無いのだけれど。それを今言ってみたら、お母様やお父様はどういう反応をするかしら。怒るか、悲しむか。


 まぁ今は、何も言うつもりはないけれど。いずれは、リカードとの婚約を破棄するように動かなければ。なるべく穏便に関係を終わらせられるように。


「ねぇ、お父様! わたし、新しいドレスがほしい!」


 食事の最中に突然、妹が声を上げた。お父様に、ドレスを買ってほしいとワガママを言い出した。


「ドレス? またか? ついこの間、新しいのを買ってあげただろう」

「えー! だって、もう古くなったんだもん。だから、新しいドレスがほしいの!」

「仕方ないなぁ……」


 お父様は仕方ないと言いながらも、妹の願いを叶えることにしたらしい。


 こんな幼い頃から、妹のメイヤはワガママだったのね。そして両親も、彼女を甘やかしてしまう。それが、彼女を何でも欲しがる性格にしてしまった。


 もう少し大きくなるとリカード王子のことを気に入って、私の婚約相手だった彼を奪い取ろうとするようになってしまうほど。彼女が裏で色々と動いて、私を貶めようとして。もちろん私が阻止して、そんな事は出来なかったが。


 前は、奪い取られないように彼女の企みを全力で潰してきた。家族だったけれど、両親とは違って私は妹に容赦しなかった。


 結局、私からリカードを奪い取るのは諦めて普通に結婚して婿を迎えて、跡継ぎの居なかったストランド伯爵家を継承した。


 私は、ストランド伯爵家の長女だった。けれど、王家に嫁いでいったから受け継ぐことが出来ない。ストランド伯爵家には長男が居なかったので、次女のメイヤが婿を迎えて継承したというわけだ。正確には、彼女の産んだ息子が。


 立派な夫に行動を制御されて、ワガママを言う回数も抑えられていた。でも時々、ドレスやジュエリーなどを強請ってくる。適当に与えてやると、何も悪さしないので扱いは簡単だった。


 そんな妹のメイヤ。彼女は今回、どういった風に動くのかしら。やっぱり、私からリカードを奪い取ろうとするのか。そうしてくれたら、私も助かる。今回は、彼女の行動を邪魔するつもりはないので頑張ってほしいわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る