第9話 とある少女

「お父様、見て。海が綺麗に見えるわ。光がキラキラしていてキレイ。」


 クララは小型のキャリッジで小高い丘の上まで親子でやって来た。


「お母様も来て。ほら、海がキレイね。」


 アレクサンドラは、笑顔で頷く。


「お父様、あそこに見える島は何?」

「隣の国だよ。」

「なんていう国?」

「お前はあそこへ行く事なんてないのだから、知らなくてもいいんだよ。」

「行けないの?」

「あぁ。行かなくていい。」

「そうなのね。人は住んでいるのかしら。」

「どうだろうね。」


 侍女のユナがピクニックの支度を忙しそうにしている。


「ねえ、お父様、私王子様にいつ会えるのかしら。お母様もダンス上手だと褒めてくれたのよ。」

「そうか。それは、見る日が楽しみだな。まぁ。もうすぐだとは思うけどね。ソフィアも、もう十五だものな。」

「はい。十五になりました。小物屋さんのレベッカは今年の終わりには結婚するんですって。」


 ソフィアは髪を撫でられながら、無垢な笑顔を父親に向ける。父親は幸せそうに笑い返す。




「この度は、母のためにお越し下さり、ありがとうございます。」


 クララは参列者に丁寧に挨拶をする。


「クララ嬢、無理だろうが、あまり気を落とさないように。お母上とは幼き頃のデビュタントでご一緒してね。とてもおきれいだった。そんな方がこんなに早く亡くなるなんてね。」

「ソマーズ伯爵は社交界ではとても憧れの的だったと伺っております。母も憧れていた一人だと思いますわ。」

「ケイトリン夫人にそんな風に思われていたら、名誉な事だね。それでは、私はこれで。」

「はい。本日はありがとうございました。」


『ご夫人のお別れの会だと言うのに、公爵閣下は姿も見せないなんて。』

『ホーガン家のタウンハウスにもマナーハウスにも行かないで、領の外れのヴィラに愛妾とその娘と住んで王宮まで通っているらしい。』

『そちらの娘をホーガン家の跡取りにするつもりらしいぞ。』

『しかし、その娘の方は社交界にも現れていないだろう?』

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