第7話 とある少女
「この度は、母のためにお越し下さり、ありがとうございます。」
クララは参列者に丁寧に挨拶をする。
「クララ嬢、無理だろうが、あまり気を落とさないように。お母上とは幼き頃のデビュタントでご一緒してね。とてもおきれいだった。そんな方がこんなに早く亡くなるなんてね。」
「ソマーズ伯爵は社交界ではとても憧れの的だったと伺っております。母も憧れていた一人だと思いますわ。」
「ケイトリン夫人にそんな風に思われていたら、名誉な事だね。それでは、私はこれで。」
「はい。本日はありがとうございました。」
『ご夫人のお別れの会だと言うのに、公爵閣下は姿も見せないなんて。』
『ホーガン家のタウンハウスにもマナーハウスにも行かないで、領の外れのヴィラに愛妾とその娘と住んで王宮まで通っているらしい。』
『そちらの娘をホーガン家の跡取りにするつもりらしいぞ。』
『しかし、その娘の方は社交界にも現れていないだろう?』
私は亡くなった母に抱きしめられた事がない。私を抱きしめてくれたのは祖父に執事のアルフレッドに侍女のアイリーンとジルだけ。父は生きているけれど、一緒に住んだ記憶はないし、祖父の葬儀以来会っていないので、七年は会っていない。父は我が領地の東の外れにあるヴィラにいわゆる愛妾とその娘と住んでいる。その娘つまり妹とは一つ違い。彼女は現在十五歳。社交界のデビューもしていない。我がホーガン家としての教育も受けていない。父はこのまま、公爵家の次女としての彼女をどうしていくつもりなのだろう。
父は多分、貴族社会の事について頓着しない人なのだろう。貴族社会という極端に狭い世界で、自分が愛する女が、血を分けた人間がどんな風に映るのか、そしてどんな風に噂をされるのか、気にしていないのだと思う。気にしているのなら、こんなにも周囲の人間に誠意を欠くような振る舞いをしないだろう。
父の事を人間としても父としても理解出来ていないのは、理解出来るだけの時間を共にした事がないからだ。
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