第6話 とある少女
夜更け近く、ホーガン家のタウンハウスにキャリッジが着いた。御者と護衛がクララの降りるのを待つ。玄関を抜けると、ホールにここで勤めている全家従が綺麗に整列していた。
そのうちの二人、執事長のアルフレッドと侍女長のアイリーンが少し前に進んできた。
「クララ様、デビュタントお疲れ様でございました。」
「ペリドットのダイアデム本当に良くお似合いです。」
「おめでとうございます。」
全員が揃って頭を下げる。クララ今日一番の笑顔を見せる。
「みんな、本当にありがとう。沢山の方たちのおかげで、今日がとても素晴らしい一日になったわ。こんな遅くまでありがとう。」
クララが自室へ歩き出すと専任侍女のジルがその後をついて行く。
「お母様、お父様がね、私もダンスを覚えた方が良いって。お母様踊り子だったでしょ?教えて。」
「そうは、言ってもね。」
「ねぇ。お母様教えてよ。前にお父様に踊って見せていたわよね?こうだった?」
娘のソフィアはパーラーのテーブルの横で、ストロベリーブロンドの髪を軽やかに舞わせて踊る。その踊りは昔、宮殿の祭事で自分が踊ったもので、以前一度だけあの人に頼まれて家で踊ったものだった。
「ソフィア、一度見て覚えたの?その踊り。」
「うん。そうよ。どう?上手。」
「本当に上手だよ。お前には才能があるんだね。凄いね。」
「執事のアルフォンソも、読み書きを覚えるのが早いと褒めてくれたわ。」
あの人は、私たちの娘を本当に大切にしてくれている。何処かのお姫様のように。私の子供が読み書きを覚え、こんな立派なお屋敷に住めるなんて。この子と同じ年の頃の私には思もしない事だった
「おいで、ソフィア。」
「何?お母様。」
「お前はね、お父さんとお母さんの大切な、大切な宝物だよ。この世で一番のお姫様なんだよ。だから、お父さんの言う事を聞いて沢山の事を覚えなさい。」
「えぇ。わかったわ。お母様。それにね、お父様がね、いつか王子様に会わせてくれると約束してくれたの。」
「そうなのかい。良かったね。」
「ソフィア様、ナイトティーはどういたしますか?」
侍女のユナはソフィアの髪をとかしながら問いかける。
「お願い。この前飲んだやつが良いわ。とっても美味しかったの。」
「ラベンダーでしょうか?」
「そうだったかな?」
「昨夜のお茶はカモミールでございました。」
「それなら、ラベンダーかしら。」
「かしこまりました。」
「ユナ。明日はお父様とお母様とピクニックしたいわ。お父様お仕事お休みでしょう?」
「それでは、旦那様にご相談致しましょう。」
「お父様、見て。海が綺麗に見えるわ。光がキラキラしていてキレイ。」
小型のキャリッジで小高い丘の上まで親子でやって来た。
「お母様も来て。ほら、海がキレイね。」
アレクサンドラは、笑顔で頷く。
「お父様、あそこに見える島は何?」
「隣の国だよ。」
「なんていう国?」
「お前はあそこへ行く事なんてないのだから、知らなくてもいいんだよ。」
「行けないの?」
「あぁ。行かなくていい。」
「そうなのね。人は住んでいるのかしら。」
「どうだろうね。」
侍女のユナがピクニックの支度を忙しそうにしている。
「ねえ、お父様、私王子様にいつ会えるのかしら。お母様もダンス上手だと褒めてくれたのよ。」
「そうか。それは、見る日が楽しみだな。まぁ。もうすぐだとは思うけどね。ソフィアも、もう十二だものな。」
「はい。十二になりました。小物屋さんのレベッカは今年の終わりには結婚するんですって。まだ十六よ。」
ソフィアは髪を撫でられながら、無垢な笑顔を父親に向ける。父親は幸せそうに笑い返す。
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