第5話 とある少女

「よく来てくれましたね。あなたが今回の舞踏会に来てくれると聞いて、楽しみにしていたのですよ。」

「有り難く存じます。」

「本当に美しくなりましたね。先代のホーガン大公がいらっしゃるときならば、あなたに偶さかにでも会えるようお願いも出来たのですけれど。今日お父上は?」


 現王の妃アーデルヘイト様は大国バティナヤシャデューケ帝国の現皇帝の同腹の妹君であられ、国色天香と言われた美貌の持ち主でいらっしゃる。それは王太子含む三人の子宝に恵まれた今も変わらない。我が国に降嫁されるとき、祖父が折に触れお世話した事で懇意にしてくれている。


「領地運営の事で多忙にしておりまして。社交の事は任せてくれておりますので。御前に参上できません事申し訳なく思います。」

「いいえ。領地の管理は我々にとって重要な仕事です。ホーガン家が安泰である事は、我が国にとっても、大切な事です。お父上の奮励に痛み入る思です。」

「有り難きお言葉、父に伝えます。」

「今宵は楽しんで。」


 最高位の礼をして、その場を離れた。



 ホーガン家のキャリッジで我が家のタウンハウスに到着すると、その大きさの対比に少し笑いがこみ上げてきた。

 先にキャリッジから降りて、彼女に手を差し出すと、にっこりと笑って手を取った。

「ウィルフレッド様、ありがとうございます。」

「今日はお疲れでしょうが、父と母が張り切って祝いの料理を用意しております。もう少しお付き合い下さい。」

「いいえ。そんな。大変有り難い事です。コンラッド伯爵家の皆様には懇意にしていただけて。私は一人娘として育ちましたので、エドワード様のように兄弟がいればこのような感じなのかと、いつもうらやましく思っております。」

「我が家の事は、親戚のように思って下さい。実際に、八代遡れば兄弟ですから。」

「そうで、ございますわね。」


 馬車回しから、玄関をくぐると、ホールには待ち構えていたエドワードがいた。


「おかえりクレア。」

「おかえりって言うのも、可笑しなものね。」


 我が子が適齢になり、社交界で初お目見えをした夜は、帰ってから家族で盛大に祝うのが、この国の風習になっている。その祝い事が、ホーガン家のタウンハウスではなく、コンラッド家のタウンハウスで行われるのは、ホーガン家に事情があるからだった。


「今宵は我がコンラッド伯爵家へようこそ。こんな喜ばしい日をお祝いできて大変光栄です。」

「まぁ。クララ嬢なんて美しいのでしょう。いいえ、今日はこんな喜ばしい時ですもの、正式にお呼びしなくてはならないわね、レディー・クララようこそおいで下さいました。」


 母が、貴人に対して行う礼をすると、クララはそれを慌てて止めた。


「そんな、今宵は娘のように思っては頂けませんか?コンラッド伯爵夫人。それはご迷惑でしょうか?」

「いいえ。とても光栄な事でございます。私どもには息子しかおりませんし、息子のデビュタントは娘のものよりどうしても地味になりますでしょ?私にも娘がいたらと常日頃思っておりましたので、大変うれしく思います。それならば、クララ様もシルビアと呼んで下さいませね。」

「はい。ありがとうございます。シルビア様。」

「さぁ、クララ嬢、ダイニングルームへ。」

「エドから聞いて、クララ様のお好きなデザートを沢山用意させましたの。全種類召し上がって下さいませね。」

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