第3話 とある少女
「エドワード様、クララ様。お茶のご用意が整いました。」
「ありがとう。ジル。エディお庭に参りましょう。」
「うん。読みかけの本お庭で読んでも大丈夫かな?クレア。」
「大丈夫よ。私もいつもそうしているから。」
初めて会った日から、一年。お互いがタウンハウスに滞在しているときは、本を読ませて欲しいと彼女の元へ押しかけていた。一人でも猛勉強して外国語を読み書きできるようにもなった。
まだぼうーっと椅子に座ったままの僕にクレアがそっと手を差し伸べてくれる。僕はその手を優しく握る。柔らかくて、優しくて、僕より少し大きい手。まだ、背だって僕の方が小さいし、読める外国語も少ないけれど、いつかあの時のクレアみたいに、今度は僕がクレアを守るからね。
「今日はロバートがサンドウィッチ作ってくれているわ。私にはホットケーキ。」
「本日は、祖父のために、ありがとうございます。生前、コンラッド伯爵の鷹狩りの腕前について祖父が良く話して聞かせてくれました。滅多にお会いする事は出来ませんが、お会いすると親しみ深い気が致しますのは、そのためでございますね。生前のご恩情感謝申し上げます。今後とも私どもと変わらぬお付き合いの程お願い申し上げます。」
「ありがとう。クララ嬢。ウォルター様も今度ぜひ、一緒に鷹狩りに参りましょう。鷹狩りがお好きだった大公のお話など致しましょう。では。」
明らかに、クレアは泣くのを我慢し気丈に振る舞っていたが、義理とは言え父を亡くしたウォルター様の表情は全く違った。涙を堪えているわけではない、高ぶる感情を抑えているわけでもない、表情が何一つないのだ。
その上、後ろに控えている執事のアルフレッドが挨拶へ向かう人を決め、指示し、その通りに動いている。相手の目の前に立っても、儀礼的な挨拶の後は、表情も口も動かさず、その後はずっとクレアが話している。十歳になったばかりの娘に全てを丸投げしているような、異様な光景だった。
「エドワード。」
「はい。父上。」
「お前は、クララ嬢と仲良くしてもらっていただろう?」
「はい。」
「気をつけて差し上げなさい。」
「はい?」
その続きを話さず、父はスタスタと歩いて行く、僕もその後をついて行くと、人気のないテラスへ出た。兄たちもいつの間にか側にはいなかった。父は膝を折り、目線を僕の高さにした。
「ホーガン家はこの国にとって重要なお家柄だ。あの家がぐらつけば、再び内戦が起こりうるかもしれない。正直、ウォルター様は危うい。クララ様をお守りしなさい。それも、この国の宰相の息子として重要な事だよ。わかったね。」
「はい。父上。」
僕はクレアを守る任務を正式に得たのだ。生まれて初めて体中の血が沸き立つような感覚を覚えた。そのためにはまず、自分の力を付ける事。僕がクレアを守るんだ。
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