第83話心強い友達
次はいよいよ友達への相談だ。従者という立場にあるダリアやヒューイに指示を出すことには慣れているが、友達となるとまた少し違う。
なぜなら彼女たちに、頼ることが迷惑だと思われる可能性もあるのだから。
きっと二人とも迷惑だとは言わないだろう。本心から力になると言ってくれる。そう信じている反面、彼女たちは断ることも出来るのだという考えが過る。
従者でもない、友達なのだから。迷惑だと感じ、嫌われる可能性もなくはなかった。
レセリカは自室で彼女たちを待つ間、そんな臆病風に吹かれていた。
しかし、そんなレセリカの心配は杞憂であった。
「来てくれてありがとう。キャロル、ポーラ」
「お呼びとあらばいつでも!」
「私もです! こんなに素敵なお部屋に来られて嬉しいくらい」
まず出だしから喜びを隠しきれない様子の二人にレセリカがどれほど安心したことか。と同時に心配になる。自分と一緒にいることで彼女たちまで悪く言われていないだろうかと。
「あんな噂があるのに、貴女たちはずっと私の側にいてくれるのね」
「当然です! だって、レセリカ様がそんなことするわけありませんから!」
「ありがとう。でも、二人とも酷いことを言われてはいない?」
元気に答えてくれたキャロルに安堵しつつ不安要素も訊ねてみると、二人はわずかに肩をすくめた。
「私は問題ないです。みんな酷いですよね。レセリカ様のことを知りもしないで好き勝手なことを言って……」
「私も大丈夫ですよ。ポーラの言う通り、噂に踊らされる方々が残念なだけですから」
どうやら、何もないというわけではないようだ。それでも、レセリカを心配して何でもないと言う二人には感謝しかない。
「今日来てもらったのは、そのことについて話したかったのだけれど……」
本当は、まだ少し迷っている。ここで頼ったら彼女たちは今後も酷い噂に巻き込まれてしまうかもしれない。
それでも、もしここで突き放したら。もし自分だったら、友達が辛そうな時に突き放されてしまったらどう思うだろうか。
(きっと、とても悲しいわ)
信じることはとても怖い。けれど、レセリカはもう決めたのだ。キャロルとポーラの顔を順番に見つめ、ゆっくりと口を開く。
「……助けて、ほしいの。私は、何もしていないからと胸を張ることしか出来なくて……。でもそれでは何も解決しないから。どうしたらいいのか、相談に乗ってもらえないかしら?」
お腹の前で組んだ両手は小刻みに震えている。二人の反応を見るのも怖かったが、レセリカはきちんと顔を上げた。
レセリカの素直な言葉は二人に真っ直ぐ届く。じわじわと言葉の意味を理解していった二人は頬を赤く染めて涙ぐんだ。
「もちろんです……もちろんですよ、レセリカ様ぁ!」
ポーラにいたってはポロポロと泣いてしまっている。突然のことに驚いたのはレセリカの方だった。
「頼ってもらえて、とても嬉しいです。……お任せください! 必ずやレセリカ様の誤解を解いてみせますから!」
オロオロしているレセリカに、涙目でハッキリ告げたのはキャロルだ。二人が相談に乗ってくれると聞いてとても嬉しい反面、なぜ泣いているのかわからずに戸惑ってしまう。
そんなレセリカの困惑した様子に気付いたのだろう。キャロルがクスッと笑って言葉を続けた。
「レセリカ様が私たちを呼んでくださったのは、初めてですよね」
ほんの少し悲しそうに、それでも優しく微笑むキャロル。それは事実だった。用もなく呼ぶのはどうだろう、などとあれこれ考えてしまって結局呼べなかったのだ。
「気を悪くされたら申し訳ないのですけれど。実は、レセリカ様と仲良くしたいと思っているのは私たちの方だけなのかなって……ちょっぴり不安だったんです」
「私も、キャロル様と同じです……。でも! お側にいることを許してもらえるだけでありがたいんですけどね! これは本当ですよ」
思ってもみなかった二人の本音に、レセリカはとても驚いた。良かれと思っていたことがかえって二人を不安にさせていたなんて。
「だから悩みごとを打ち明けてもらえて、何と言いますか、そのぉ……平民の分際で図々しいかもしれないんですけど、本当のお友達と思ってもらえたみたいで嬉しくて」
ポーラが涙を拭いながら嬉しそうに笑う。本当に心の底から喜んでいるのが伝わってきた。
これが正解だったのだ。勇気を出して助けを求めたのは、自分にとって正解だったと理解した。
思いは言葉や行動でみせないと伝わらない。父オージアスの件でわかったつもりでいて、また同じ間違いをしてしまうところだったのだ。
レセリカは自分の未熟さを知り、深く反省した。
「キャロルもポーラも、学園で出来た初めてのお友達だと思っているわ」
「レセリカ様……!」
反省したら、次に活かす。今後すぐにそれが出来るようになるわけではないかもしれないが、意識すればいつかはスムーズに伝えられるようになるはずだ。
少なくとも、この二人の友達の前ではもう遠慮などしない。
「では! お友達記念として、早速レセリカ様のお悩みの解決策を練りたいと思います! ちょっといい案があるのですけど、聞いてもらえます?」
「ええ、もちろん。ありがとう、キャロル」
ついこの間まで不安で暗く沈んでいた気持ちが嘘のように、レセリカの心は晴れやかだ。
この二人や、ダリアやヒューイがいれば何も怖いものはない。そう思った。
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