第58話報告会と意外な繋がり


「レ、レセリカ様! いかがでしたか? 初日のオリエンテーションはっ」


 教室内に戻ると、すでに帰って来ていたキャロルがレセリカを待ってましたとばかりにレセリカを出迎えた。

 目をキラキラさせたキャロルは、話を聞くのが楽しみ半分、心配半分といった様子だ。同じチームになった相手によっては苦労をすることを彼女はよく知っているのだ。


「特に問題もなく終えたわ。キャロルは、どうだったのかしら」

「ああ、良かったです。レセリカ様が不快な思いをされていたらどうしようかと。私の方も問題ありませんよ! ただ、知っていることばかり説明してくる先輩でしたので、笑顔が引きつりそうでした。あっ、内緒ですよ?」


 キャロルの話によると、彼女のチームの先輩ご令嬢がずーっと喋っていたという。それはそれで賑やかで楽しそうだとレセリカは少し羨ましく感じた。

 ちなみに、もう一人は二年生の大人しそうな子爵家の男子生徒だったという。キャロルもお喋りな方であるし、さぞ男子生徒は肩身の狭い思いをしたことだろう。


「そういえば、さきほどバクスター家のご長男と一緒にいらっしゃるのを見かけました。同じチームだったのですか?」

「ええ、そうだけれど。知っているの?」


 自分の話はこれでおしまい、とキャロルはレセリカの話を聞きたがった。


 キャロルはどこかレセリカに対して強い憧れを持っているように見える。同じクラスになれたことがとにかく嬉しいのだろう、お茶会の時は控えめだったお喋りが止まらないようだ。

 とはいえ、レセリカはキャロルにとって遥か高みにいる存在。友達というよりはファンに近い感情であろう。


「もちろんですとも。商家の娘ですから、貴族家のことには少し詳しいのです。といっても、バクスター家は同じ男爵家なので情報も入りやすいってところはありますが」


 レセリカにとっては、彼女のようにたくさん喋ってくれら存在はありがたい。自分の知らない情報も教えてもらえるし、何より聞いているのは楽しいのだ。

 ずっとこの調子だと疲れてしまうかもしれないが、四六時中一緒にいるわけでもないのだから。


 ただ、こっそりとレセリカを見守っているヒューイは相変わらず少し拗ね気味になっているようだが。


「殿下の護衛候補の方でしょう? それなら安心ですね! もうひと方はどなたでしたか?」

「……アディントン伯爵子息よ。初めてお会いしたけれど、背が高くて驚いてしまったわ」


 もう一人の顔を思い浮かべてほんの僅かに緊張が走ったレセリカだったが、すぐに落ち着いて答えてみせた。もちろん、表にそんな態度は見せていない。


「私もご子息にはお会いしたことはありませんね。アディントン伯爵はうちの店をよく利用してらっしゃるようですけれど」

「そう、なの?」


 しかし、続く話には少々声が上擦ってしまう。キャロルには気付かれていない様子なのが幸いした。

 意外なところから情報を得ることが出来そうだ。レセリカは些細なことでもしっかり覚えておこうと心を落ち着かせる。


「うちは色んなものを海外から取り寄せているのですが、特に薬関係に力を入れていて。アディントン伯爵家は士官を輩出するお家柄か、怪我が多いのですって。よく傷薬を買っていかれるのです」


 なるほど、確かにアディントン家は代々城に仕える士官を輩出していることで有名だ。

 領地自体はそこまで広くはないものの、教育を施された者たちの厚い忠誠心と確かな剣術の腕が高く評価されているのだ。


 リファレットもその教育を受けてきたはずなので、傷薬にはお世話になっていることだろう。


「傷薬といっても色んな種類や効能があって、ややこしいのですよ。だからこそしっかり勉強して覚えないと、と! 私が学園に来た目的の一つでもあるんです」

「すごいのね、キャロルは」


 目的をもって学べるのは素晴らしいことだ。素直に思ったことを伝えたレセリカだったが、キャロルは顔を真っ赤にして謙遜した。


「そ、そそそんなことはないですっ! わ、私は覚えが悪くて突っ走りがちなので怒られてばかりで……そんなことでは将来苦労するぞ、とよく両親にも言われるんですよ。私も、自分の頭があまり良くないのは自覚しているんです。だから、人一倍頑張るしかないと思っていて……!」


 キャロルの両親はどうやら厳しいようだ。商家の娘であるキャロルがその商売を継ぐかどうかまではわからないが、商人であるからこそ厳しく躾けられているのかもしれない。


 そもそも、貴族家では厳しい教育は普通である。中には最低限出来ていればいいという家もあるのかもしれないが、少なくとも一般家庭よりはしっかりと教育を受けさせるのが当たり前だ。

 そんな教育を受ける中、自分に足りない部分を目の当たりにしたり、うまくいかないことも多くある。悔しい思いをすることもあるだろう。


 そう言った面で優秀過ぎるレセリカが苦労したことはあまりないのだが、大変であることくらいは理解出来た。


「その、人一倍頑張れることが貴女の才能だと思うわ。やっぱり、すごいことよ」

「れ、レセリカ様……!」


 人から叱責されて諦めてしまう人も多い中、悔しさをバネに踏ん張れるのはすごいことだとレセリカは知っているのだ。今のベッドフォード家には頑張れる人ばかりが残っているので余計にそう感じるのである。

 なんといってもオージアスの強面と迫力に負けなかった猛者たちなのだから。


「レセリカ様にそう言っていただけたら、私、もっと頑張れそうです!」

「でも、無理はいけないわ。適度に息抜きもしながら一緒に頑張りましょう」

「も、もったいないお言葉です!!」


 ただ、キャロルは本当に無茶をしそうな子なので、頑張りすぎないか心配だとレセリカは思うのだった。

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