第8話 修練4カ月

 そして,一ヵ月が経過した。千雪が,魔界に来て4ヶ月目だ。今日は,一人で外出していいかどうかの最終試験日だ。

 千雪は裸体だが,みごとに,背景色に溶け込んでいた。よく探さないと,どこにいるか,わからない程度だった。


 師匠「今から,何もいわずに,あらゆるS級レベルの魔力攻撃を行う。瞬時に判断して,適切な防御態勢を取りなさい。魔界の魔法士は,基本的に火炎攻撃が得意だ。しかし,魔法陣を構築すると,あらゆる種類の攻撃が可能となる。見ての通り,私もすでに,複数の魔法陣を構築した。いつでも攻撃できる体勢だ」


 千雪「はい,いつでもどうぞ。必ず防御してみせます」


 師匠は,火炎攻撃から始まり,氷結の矢の連弾,雷撃,そして前回防御できなかった氷結の剣の10連発をわずかな時間差をおいて連続的に発射した。どれもS級レベルだ。


 ゴーー,ヒューー,ゴゴゴゴ,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー。


 千雪は,すべてそれらを受けて防御しなくてはならない。逃げることは許されない。当然,全弾,命中した。それらは,千雪の体に当たって,いずれも鈍い音を立てた。


 ボォーーー,ドス,ドス,ッガガ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ,コッ。


 千雪は耐えた。耐えることができたのだ。この1ヵ月間,真摯に修練した賜物だ。千雪の体は無傷だった。これだけの攻撃を受けて,無傷とは,正直,師匠も少しびっくりした。今の一連の攻撃なら,へたすれば,魔法攻撃無効化結界でも破壊してしまいそうな勢いがあったからだ。


 師匠「サリー。よくぞ頑張った。これが霊力を操る,ということだ。魔法,つまり現代魔法とは根本的に違うところだ」

 千雪「はい,ありがとうございます。ですが,霊力と現代魔法とは,なにが違うのでしょう?」

 師匠「現代魔法は,魔力を使う。魔力は,飛びやすい性質がある。それ故,攻撃に向く。だが,霊力は飛ばない。だから防御に向く。今は,それだけ覚えときなさい」

 千雪「はい。よくわからないけど,わかりました」

 

 師匠「よし,次は48式だ。始めなさい」


 千雪は,48式を演舞した。いくつかの訓練の中でも,目標設定がはっきりとわかる項目だ。


 師匠「1分10秒か。5倍速を達成したな。まさか,ほんとうに達成するとは驚きだ」

 千雪「へへへ。そうでしょう。一人で外出したくて,がんばったんですよ。師匠ーーー」


 師匠「そうか。わかった。では,明日から,午後は,完全な自由行動を許可する。仕事紹介所で仕事するのもよしとする。いろいろと経験を積みなさい」

 千雪「はい!ありがとうございます」


 師匠「しかし,注意事項がある。しっかりと聞きなさい」

 千雪「はい。しっかりと,聞きます」

 師匠「よし。いろいろと活動すれば,当然,危険な目にあうこもある。私は傍にないから,千雪が自分自身で身を守る必要がある。これまでの訓練の成果を忘れないこと。また,将来,誰が敵となるかわならない。だから,自分の能力は隠すこと。そして,いったん敵を倒すと決めた以上、殺すことをためらってはいけない。ここは,魔族社会だ。サリーのいた月本国の社会ではない。サリーからみれば,魔族は,皆,ゴキブリだと思って踏みつぶしなさい」


 師匠は,一息入れて続けた。


 師匠「いいか,けっして,人間と思って,殺すことをためらうな。サリーの5倍速で,霊力を流して手を手刀に変化させれば,一瞬で首をはねることは容易なはずだ。今の千雪に勝てる魔法士や剣士は,そうそういるものではない。謙虚に行動し,かつ戦うときは大胆に行動しなさい。以上だ」


 千雪「はい,わかりました。殺すと決めたら,ゴキブリを殺すと思って対処します」

 師匠「よし,その気持ちがあれば,サリーは,この魔界でも生きていける」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る