第5話 霊力の核

 師匠「サリーよ。今から10年も修練するのはつらかろう。その10年分の修練の成果を今からお前に渡す」


 千雪「えー!!ほんとうですか!師匠,そんなことできるのですか」

 師匠「私は,もともと霊力ではなく,魔力を使って魔法を行う。この10年間に私が創った霊力の核は,もともとサリーに渡すためのものだ。それも精霊様からの指示だ。精霊様に感謝するのだな。まだ会ったこともないと思うが」


 千雪「はい,まだ会っていませんけど,この指輪の精霊様に感謝します」

 

 千雪はそいういって,このボロボロの指輪にキスした。


 師匠「では,転送の準備を行う。下腹部に魔法陣を構築しなければならん。恥ずかしいかもしれんが,全裸になってもらう」


 千雪「はい,わかりました。師匠を信じていますから,大丈夫です」


 千雪は,服をすべて脱いで,全裸になった。顔や体全体にソバカス状の赤いボツボツがあった。それが,絶世の美人で抜群のスタイルを台無しにしていた。


 師匠「そのソバカスは,わざとにつけたものか?」

 千雪「そうです。日本にいるとき,ストーカーや,痴漢に何度も会ってしまって,レイプもされました。幸い未遂でしたが。もう男嫌いになってしまいました。だから,男に勝てる力が欲しかったのです。でも,すぐには無理なので,自分の容姿を醜くすることから始めました」


 師匠「美人で容姿端麗で生まれてくるのは,必ずしも幸福なことではないのかもしれん。そこに仰向けにして横になりなさい」


 千雪は,言われた通りにした。師匠は,下腹部に,授受側の霊力転送魔法陣を構築した。師匠は,あぐら姿で服を脱ぎ,下腹部に,放出側の霊力転送魔法陣を構築した。そして,師匠の霊力の核から流れ出る霊力を,千雪の下腹部に吸収させていった。


 千雪の下腹部には,すでにイメージ訓練で架空の『霊力の核』ができていた。そこに霊力が流入して,徐々に架空の『霊力の核』から現実の『霊力の核』に変化していった。


 10分が経過した。


 師匠「終了だ。サリーよ。服を着なさい。私は,この術をつかったのは始めだ。サリーの霊力の核が安定するのに,どれくらいの時間が必要なのかもかわからん。でも,1週間もすれば,安定すると思う。その間,イメージ訓練は中止とする」


 この1週間,千雪はおもに魔界語会話と魔法書の読解に集中した。ときどき,近くの子供たちと会話練習をして過ごした。


 1週間が経った。


 師匠から,全裸になって,あぐらの姿勢になりなさいと言われて,千雪はその通りにした。


 師匠「両の手のひらを腹部に当てなさい。そして,おへその部分にある霊力の核を感じなさい」

 千雪「はい」

 千雪は,その通り行った。

 千雪「師匠,何か感じます。暖かく,いや,熱いぐらいです。でもとても心地よいです。

 師匠「それが,サリーの霊力の核だ。そこから霊力が流れる。それを,体表面全体に流すようにしなさい。手のひら,指,その一本一本まで,しっかりとイメージして,そのイメージ通り,霊力が流れるようにしていきなさい。最初は,手のひら,手の指からだ。それができたら,腕,肩,首,頭,胸,背中,腹部,両足,足の指,足の裏,どの体の部位でも,即座に霊力を流す訓練をしなさい」

 千雪「はい」


 師匠「その間,48式を,これで通り6分で行い,一日,10回程度の練習でよい。また,あぐらの姿勢で霊力の流れを感じれたら,立っている姿勢,寝ている姿勢など,あらゆる体勢でも霊力を流せるようにしていきない。それができたら,後は,自分で計画的に修練していくように。これからの3週間で,なんとか霊力をスムーズに流すようにすることを優先しなさい」

 千雪「はい,わかりました」


 千雪は,この3週間,霊力をイメージ通り流す訓練に集中した。ときどき,師匠にアドバイスを求め,適切なアドバイスをしてもらった。だが,師匠にはもう霊力はないため,実演してもらうことはできなかった。そのたびに,師匠には申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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