第3話 修練開始

 初日の訓練が始まった。


 師匠「魔法を習得するには,強靭な体と体力が必要となる。まず,体つくりから始める。格闘術の8種類の連続技を6回繰り返す一連の演舞,名付けて『48式』を覚えなさい」


 師匠がこの技の見本を示した。


 1式の動作は,右手正拳,左手正拳を2回繰り返し,右肘および左肘による真横への攻撃,右脚による後ろ中段蹴り,一歩下がって,左脚による上段蹴り,というものである。この8種類の連続技の動作全体で一つの式だ。その連続技が8種類あり,それを6回繰り返すので48式と呼んでいる。

 一式の動作は約10秒かけて行う。48式をすべて演舞するのに8分かかる。その後,2分間呼吸を整える。その繰り返しを行う。


 午前中の4時間は,この単調な動作を繰り返すだけだ。昼休みは2時間とる。午後2時から6時まで,また同じことを繰り返す。


 ただし,1時間ごとに10分休息をとる。その方法は,あぐらをして瞑想を行う。下腹部の位置にピンポンの玉のような核を感じるように努力する。


 しかし,最初の頃は何も感じることはできない。師匠の説明では,気を感じるというイメージらしいのだ。今はイメージトレーニングだけでいいそうだ。気を体内に循環させるというイメージだ。下腹部から,胸,首,頭,肩,腕,手,指,腰,脚,足,足の指,背中へと移動して,体内から体表面へ,さらに体表面から5cm離れた空間面へと気の流れをイメージしていく。最初はゆっくり,そしてだんだんと速く気の流れを循環させる。


 このように,休息時間はイメージトレーニングにあてられた。イメージだけでいいので簡単だ。


 千雪は48式を覚えて,修練を開始した。千雪は師匠にあれこれと質問したかったが,当面は言われるまま従うことにした。


 午前中の修練が終わると,汗だくになり,サラシや下着は汗を大量に吸ってしまう。お昼休みに部屋に戻って,いったん軽くシャワーを浴びて,汗を流し,乾いたサラシと下着に着替えて,午後からまた同じ48式を繰り返し行った。


 夕方は,魔族語会話集で,魔族語の勉強をした。師匠が気をきかして,近くの村の子供と会話する機会をときどき与えてくれるので,いい刺激になった。


 食材は、3日に1回程度,近くの村から運ばれてきた。その都度,師匠がお金を支払った。師匠はどこからお金を稼ぐのか疑問だった。


 1周間が経過した。


 少し慣れた頃,師匠は一言,8分かけて行っている48式を7分に短縮しなさい,と命じた。休息時間は3分に増える。

 しかし、これは千雪にとっては,かなりきついことだった。師匠は,何度も千雪の動作の切れが悪い,と注意した。ケリの角度、突きの形など,時間が短くなると,ぶれてくるのが千雪でもわかった。それを修正しつつ,7分で48式を演舞するのだ。

 

 千雪は,黙々と修練の日々をこなしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る