不可解な君と僕

 僕の超能力エスパーが発現したのは中学1年の10月。今からちょうど3年前だ。

 人付き合いが苦手な僕は、同じ小学校からの友達としか仲良くできないでいた。それでも、少ないながらも僕は友達との日々をそれなりに楽しむことができていたのだ。

 けれど、崩壊は突然だった。

 なんの前触れもなく友達の心の声が聞こえてきた。


れいと居ても楽しくないな』

『おどおどして、新しい友達と話すのに邪魔なんだよ』


 友達からの裏切り。僕は13年の人生で一番の絶望を味わった。

 それからは、四六時中、鳴り止まない人々の本心に悩まされ続ける。結局のところ、人間に根っからの善人はいないのだ。

 人は誰しも嗜虐心を持っている。それを見せないよう、明るく振る舞う。僕はそれに騙されていた。

 なんだかんだで僕らは友達なのだと思っていた。僕のことを好きでいてくれているのだと思っていた。

 1年が過ぎた。2年が過ぎた。みんな優しい顔をしながら残酷なことを考えている。もう、うんざりだった。

 やがて僕は人に希望を持つのは辞め、1人で静かに生きていくと決めた。


 ◇


「ねえ、次の授業ってなんだっけ?」

「……数A」

「ああ、そっか、ありがとう! うーん、数学苦手なんだよねえ……」


 1時間目のホームルームが終わったところだ。

 今朝、友達になろうと僕に言った彼女はつい今しがたの席替えで隣になった。


「それにしても友達になった直後に隣なんて、なんだか運命感じちゃうね」

「いや、まだ友達になってないような」

「え、そうなの!?」


「一応返事はしてないからね」と何でもないように言うが、僕の心臓は飛び跳ねていた。

 運命。そんな簡単に感じるなよ、運命を。


「それじゃどうやったら私たちは友達になれるかな?」

「……そもそもなんで僕なんかと友達になりたいの?」

「疑問に疑問で返すのは失礼だよ、相模さがみくん」

「そういうの、いいので」


 僕からしたら不可解この上ない。顔がいいわけでもなく愛想がいいわけでもなくイケメンと仲がいいわけでもない。こんな僕と友達になるのにメリットなんて無いだろうに。

 あれほど憎んでいた超能力が、今はただただ恋しかった。


「逆に相模くんはどうしてそんなに人を遠ざけるの?」


 意趣返ししてやったり、なんて思っているのだろうか。渡会わたらいさんはニマニマと意地の悪い笑顔をしていた。


「人が嫌いだからだよ」

「どうして?」

「人が嫌いだから」

「なるほど」


 内心僕は戸惑っていた。こんなにもズカズカとパーソナルスペースに入ってくる人は初めてだったのだ。


「うーん、仕方ない。相模くんは答えてくれたのだし、私も質問に答えないとね」


 渡会さんはさっきまでのヘラヘラとした笑顔が嘘のように、真面目な顔をして僕の目を見た。なんだか居心地悪くて視線を逸らす。


「私が相模くんと友達になりたい理由――それはですね、相模くんに友達がいないからです!」

「……馬鹿にしてます?」


 今の発言は到底許されるようなものではない気がするのだが。


「え? あ、いや、違う! 馬鹿になんてしてないから!?」

「はあ、それで?」

「やっぱり友達がいたほうが楽しいでしょ? 私はね、たくさんの人と仲良くなりたいの!」

「つまりは同情ってことだよね」

「うーん、そうなるのかな。でも、私個人が相模くんと仲良くなりたいと思ってるのはホントだよ」

「……そんなの、信じられない」


 僕の呟きは聞こえなかったようで、「でも同情ってそんなに悪いことなのかな……?」と唸っている。そんな渡会さんを横目に、先程から注がれる無遠慮な視線にため息をついた。


天音あまねって女、また男を誑かしてる』

『ビッチじゃん』

『冴えない男のくせに天音さんと……!』

『でもなあ、渡会さんは友達以上の関係は望まないからなあ。勘違いするなよ、えーとなんて名前だっけ? あ、そうだ、相模くん!』


 どいつもこいつもうるせえよ、バカ。

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