君の本音が聞きたいんだ!

福山慶

そして僕は君と出会った

 僕はもう、人を好きになることはないんじゃないのかと思っていた。嗜虐心を嘘で固めたこの世界に飽きていたのだ。


 ――君と出会うまでは。


 ◇


 僕の名前は相模零さがみれい。都会でも田舎でもない普通の街にある、これまた進学校でも底辺校でもない普通の高校に通っている高校1年生だ。

 だからといって僕の人生が普通かと言うと、そうでもない。言っても誰も信じないような、荒唐無稽で残酷な秘密を抱えている。

 秋色に染まる並木坂は学生の談笑で活気を見せていた。そんな中、僕は1人だ。

 下を向いて歩いているのも、意識を誰にも向けないようにイヤホンをつけてJポップを聴いているのも全ては超能力のせい。こんな力が無ければ僕にも友達はできただろうし、憂鬱な日々を過ごさなくてもよかっただろう。――なんてことはただの言い訳かもしれないが。

 黄色い落ち葉を踏みつけながら坂道を登る。こうして学校に登校するとき、僕はいつも強い希死念慮に襲われる。世界にも人間にも未来にも希望は無く、あるのは虚しいタスクだけ。

 僕はなんのために学校へ行くのだろうか。僕に生きる価値などあるのか。


「はあ……」


 ため息をすると幸せが逃げる、なんていう言説を漫画で見た気がするが、1日に10回はため息をつく僕にあとどれだけの幸せが残っているのだろう。 


 ――そんな馬鹿げたことを考えていたからだろうか。僕は過ちを犯した。


「キャッ!」

「うッ!?」


 前方不注意。鼻先に桃のような甘い香りとともに、痛みが生じた。

 人と、ぶつかってしまった。


「あっ、急に止まっちゃってごめんなさい!」

「いえ、僕の方こそ……」


 鈴のように高い声音を発した人物を見る。

 亜麻色の髪を肩で揃えた彼女は女性にしてはやや背が高く、勢い良く謝るところを見るに天真爛漫という印象を覚えた。

 僕とは住む世界が違う人。周りには男女が3人いて、皆一斉に僕へ侮蔑の視線を浴びせた。期せずして僕の能力が主張を始め、心をえぐりにかかる。


『なんだこのチビ』

『前髪ながっ! 冴えない男子だなあ』

『ふふっ、おどおどしてるの面白い』


 僕は視線を地面に戻した。


「本当にごめんなさい。えっと、失礼します」


 逃げるように彼女らを抜かした。冷や汗が秋風に吹かれて肌寒い。靴底から伝わる落ち葉のザクザクとした感触も不愉快だ。


 最悪だ。


「ま、待って!」

『ん、なんでこんな男を引き止めるんだ?』

『どうしたんだろう、天音あまねちゃん』


 焦っているように感じ取れる彼女の声とともに足を止め、恐る恐る振り返る。本心を言えば早く学校に逃げ出したかったけれど、ここで無視をするのは感じが悪いし、相手を不快な気持ちにさせるかもしれなかったから仕方ない。

 いったい彼女は何を思って僕を引き止めたのか。柔らかで可愛らしい瞳に視線を合わせたとき、僕は違和感を覚えた。


「きみ、同じクラスの相模零さがみれいくんだよね?」

「えっ、ああ……」

「あれ、その反応もしかして私のことわからない!?」

「えっと、ごめん……」


 基本的に人を避けて生活しているから、クラスメイトは男子でさえも覚えていない。つまり僕は彼女に多少の見覚えがあったから違和感を?

 けれど、生じた違和感はそんなものではないと思い直す。彼女と会話を重ねていくうちに疑惑は確信へと変わっていった。


「私は渡会天音わたらいあまね。同じ1年3組だよ」


 そう、そうだ。やはりそうなのだ。

 始めは思い過ごしだと考えた。けれどいつまで経っても聞こえない。

 僕は、彼女のが聞こえないのだ。


「相模くん、私と友達になりませんか!」

「えっ?」


 突然そう言った彼女はかげりひとつない笑顔だった。

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