第63話 M

部屋探しやその他諸々は明日ボロスの店で話すことにして、今日は宿に泊まろうとラスバルさんの家を出ようとすると、従者さんに部屋の準備が出来ていると言われてしまった。

3匹と私達でお世話になりっぱなしなのは、いいのかと思っていると、ラスバルさんがにっこりと「いつでも泊まれるようにしておくから、家だと思ってくれればいい」と言われてほんのり不安になる。

ボロスさんからは、「ここに君たちを狙ってくるバカは、ラスバルしかいないから安心して寝なさい。ラスバルが気持ち悪かったらすぐにスラテルポで連絡してください。念のために従魔と一緒に寝なさいね」と、言われた。

もしかしたら、私達が大金を持っていると知っている人間がいるかもしれない、もしくはボロスやマグリッドさんへの人質になるかもしれない事への防衛策なのかもしれないねとリェースと話し合って、しばらくお世話になることにした。


ラスバルさんの家は、ラスバルさん以外は本当に理想的で快適な家だった。

どうせならこんな家に住みたいねと、リェースと相談するくらいに。

大型中型小型それぞれの従魔用の獣舎に、大型の従魔が走り回れるほどの広い庭。

客間に寝室に応接間に居間と食堂と、さらに遊戯室まである。

風呂も手洗いも2つずつあって、従魔用の水浴び場も完備されている。

至る所に光や温度を管理するための魔石魔道具が配置されていて、過ごしやすい。

この家の従魔の数に比べたらかなり少ないが、うちの子たちは成長すれば大型の部類に入る子が2匹いるし、大魔鷹のヒナを家族に迎えることが出来たらまた増える。

店や工房・作業場・納屋や倉庫の事を考えると、かなり広い土地のある家になってしまう。

果たして、そんな土地があるかどうか・・・

ボロスは、「探してみせる」と言ってくれたが、不安しかなかった。


翌朝、食堂と化している居間に行くとラスバルさんが起きてきていた。

「おはよう。2人とも、気持ちのいい朝だね!つい先程、ボロスから連絡が来てね、迎えに行くから待っていてくれとの事だよ。さぁ、しっかり朝ごはんをお食べ!」

朝からご機嫌な様子に、2人して苦笑した。

ご機嫌の要因は、昨夜渡したスラテルポのせいだろう。

3人が王都に行っている間に作り上げた、ボロスとマグリッドさんと同じ仕様のスラテルポを渡すと、使い方を説明した後で全員とのやり取りを試してから、ずっと磨き続けていた。

まるで、欲しかったおもちゃを誕生日に貰ったような子供みたいだとリェースと2人で密かに笑った。

気に入ってもらえたようで、それは素直に嬉しい。

朝食を食べ終わると、ボロスが迎えに来るまでしばらく庭で従魔達と遊ばせてもらった。

やはり、大魔鷹のヒナ達が可愛くて、ひょこひょこと成獣達に混ざって駆け回る姿を見ていた。

既に手乗りでは無くなってしまったけれど、まだ腕に止まるくらいは出来る大きさで頬ずりすると、翼がふわふわで気持ちいい。

「マインちゃん、その子連れて行くかい?ずっと気にしていた様だし、リェースちゃんにも連れて行っていいかと聞かれているんだ。君が望んでくれるなら、私は構わないよ?ついでに私の愛も、連れて行ってくれないかい?」

茶目っ気たっぷりに片目を瞑っている笑顔は、すこぶる美しいのに何故かぞわっとする・・・

リェースを振り返ると、にっこり笑って手を振っている。

私も笑顔で手を振り返して、ラスバルさんにお礼を言った。

「この子だけ、連れて行きます。ありがとうございます。」

何となく、硬い言い方になってしまった。

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