第57話 M
リェースがぶっ倒れそうになる少し前に、私も超特急でロードミスリルから2枚の板を削り出していた。
慣れてきたとはいえ、慎重に慎重を重ねる様に神経をすり減らす作業に、何度か息を止めて作業していた。
女将さんから、キリがついたらお茶にしましょうねと言われていたので、あまり遅くなりたくなかった。
何とか2枚の板を切り出して、形を整えたところでお茶を沸かす音が聞こえた。
磨き上げは、後でゆっくりやることにして部屋を出る。
女将さんとフォル爺さんに、今日可愛いひな鳥を見せてもらったのだと昨日来れなかったこの謝罪と一緒に話をした。
2人は心配していたから、元気な顔が見れて安心したと言ってくれた。
何故かほっこりとして、嬉しかった。
2人とのお茶の後は、切り出した板を磨き上げる作業に没頭した。
今朝のヒナの事を思い出すと、楽しい気持ちで時間も忘れて磨いていた。
いつも通りに片づけをして部屋を出ると、夕飯を作るいい匂いがした。
途端にお腹が鳴って、お礼もそこそこに3匹を迎えにラスバルさんの家に急いだ。
私の到着とほぼ同時に、リェースと何故かマグリッドさんが到着する。
リェースは何故かヘロヘロになっていて、私が支えながら居間に通された。
居間には、ラスバルさんとボロスが居る。
何故に勢ぞろいしているのか、ほんのりと不安になった。
「おかえり、2人とも。さぁ、お座り。夕飯を用意しているからしっかりお食べ」
ラスバルさんに促されて席に座ると、温かい食事がこれでもかと並べられた。
食後のお茶の時に、ラスバルさんが切り出す。
「それで?マグリッド、何があったんだい?突然、我が家にボロスも集合だなんて」
「どうもこうもないわよ。リェースがとんでもないものを作り出してくれたわ」
コトンと机に置かれたのは、薄緑色の液体の入った瓶だった。
「これは?」
ボロスの言葉に、マグリッドさんが答える。
「聖血の水薬」
その場のリェースとマグリッドさんを除く全員(従者さん含む)が、はぁ?と首を傾げた。
「嘘でも冗談でも、何でもないわよ?ほ、ん、も、の!この子が作ってしまったのよ」
「この薬は、材料が取れなくて現存しているのは教会の本部にある2瓶と王家に管理されている2瓶だけだったはずでは?」
ボロスの言葉に、私は首を傾げて、ラスバルさんは頷いた。
「その通りのはずだよ。かのダーナ・エールの最盛期でも、材料と魔力の不足で完成品は出来なかったはずだ」
リェースのおばあさんの名前にリェースを見ると、ウトウトと半分眠りに落ちていた。
「先ず、この子の魔力量に驚かさせるね。あれは本来、2人から3人で魔力を込めないといけなったと思うが?」
ラスバルさんは、眠りかけているリェースを見て微笑むと、従者さんにソファに寝かせる様に言ってくれた。
そっと抱き上げられて、ソファで寝息を立てる稀代の魔術師の養い子は、あまりにも可愛らしい。
「それもそうですが、材料を揃えられたのは、やはり鉄魔鷹のおかげなのでしょうか?」
ボロスは、問いただすように私を見た。
3人の大人に、じっと見つめられて私は小さく頷くことしかできなった。
はぁ~と、盛大なため息を3人揃って吐き出すと、今後どうしようかと議論になって行った。
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