第56話 R
翌朝、しっかりと朝ごはんを頂いてから、2羽の居る隔離部屋に5人で向かった。
私、マイン、ラスバルさん、ボロスさん、従者さんだ。
扉を開けると、ぐったりとうなだれる様に首を地面につけて眠っている2羽が居た。
私は、地面に置かれた何の音もしない赤い石を拾って、ポケットに入れた。
「アルコ?」
あまりの静かさに耐えかねたラスバルさんが声を掛けると、アルコは目を覚まして首を上げた。
ラスバルさんを見た時のアルコの顔には、生気が無いように思えた。
ゆっくりと顔をラスバルさんの胸に擦り付けて甘えるような仕草をすると、ラスバルさんはゆっくりとアルコを撫でた。
恋鳥ちゃんも目を覚ますと、ラスバルさんを見て、首を下げる。
まるで謝っている様で、少し可愛く見えた。
アルコと恋鳥ちゃんを庭に出すと、ぐっと大きく伸びをして翼を広げた後に、2羽で空に舞って行った。
「なんとなく、仲良くなった気がしますね」
ボロスさんが言うと、他の4人で頷いた。
庭には、うちの3匹も居て、私達を見つけて駆け寄ってくる。
もふもふの毛並みを全員で存分に撫でまわしてから、ヒナの様子を見に行った。
ヒナは籠の中で、すやすやと眠っていて可愛らしかった。
ラスバルさんがそっと手のひらに1羽を乗せて、マインに手渡す。
マインはそっと受け取って、小さなヒナに頬ずりをしていた。
ラスバルさんは、もう1羽を私の手のひらに乗せてくれた。
暖かくて、小さくて、私も思わず頬ずりをした。
マインと2人で、可愛いねと笑って小さな手乗りのヒナを指先でそっと撫でた。
「何とかなりそうですかね。あの2羽は・・・」
ボロスさんの言葉に、ラスバルさんは小さく笑んで頷いた。
その日のお昼まで様子を見ていたが、慣れないながらも育児に参加する姿勢を見せた恋鳥ちゃんに安堵した。
そのまま3匹をお願いして、私とマインは工房と薬師協会に向かった。
このまましばらく通いで預かって貰えないかなと考えながら、今日も目標数を制作する。
午後のお茶をマグリッドさんと飲みながら、昨日と今日の報告をした。
昨日来なかったことで、心配をかけてしまった。
そうゆう時のためのスラテルポでしょ?と言われて、その通りだと反省した。
お茶の後からは、ついに命の聖血を使って水薬を作ろうと作業を開始した。
手順は案外簡単で、命の聖血の粉1に対して、トネキの粉末・魔飛鹿の牡鹿の角の粉末・黒火トカゲの丸焼きの粉末を2、精製水に魔力を入れて魔素水にしたものを3、後は一定の魔力を掛けながらトロッとした薄緑の透明な液体になるまで煮詰めるだけ。
分量を量って、小さな鍋に入れて魔力を注ぎながら煮詰める。
耳かき1匙もないほどの命の聖血に、魔力をごっそりと持っていかれた。
途中でやめることもできずに、踏ん張って魔力を注ぐ。
額にも首にも体中に、汗が噴き出していた。
何とか緑色の透明な液体が出来上がったころ、マグリッドさんが作業場に覗きに来た。
「リェースちゃん?もう夜だけど、あんまり根詰めてしなくていいのよ?」
そう言ったマグリッドさんに、縺れる舌で「見て」と言うのが精一杯だった。
椅子に倒れ込むように座り込んで、マグリッドさんが鍋を覗き込んでいる後ろ姿を見ていた。
今、横になるか目を閉じたら、意識が飛びそう・・・
ガバッと私を振り返ったマグリッドさんの顔は、驚きと歓喜と怒りが混ざったような顔だった。
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