第52話 R

薬師協会でマグリッドさんに作業場を貸してもらうと、私はすぐに言い渡されている自分の目標数の回復薬を作り始めた。

目標数の半分までを午前中に作り上げて、マグリッドさんが用意してくれいるお昼ご飯を食べに作業場を出た。

「マグリッドさん」

声を掛けると、何やら本を読んでいたマグリッドさんが顔を上げた。

「リェースちゃん、お疲れ様。お昼食べましょうね」

受付の内側で、2人で向かい合ってお昼を食べる。

私は、ふと、ばぁさまについて聞いてみたくなった。

「ばぁさま、どんな人?」

マグリッドさんは、少し笑って怖い人だったと教えてくれた。

「ダーナさんに初めて会ったのは、私がここに勤めだしてすぐだったわ。街では、あんまり見かけない人で先輩がダーナさんと呼んでいたから名前を知ったの。見た目から魔女ですって感じの人で、フードを目深に被っていて怪しさを醸し出してたわね。」

ふふふと懐かしそうに笑うマグリッドさんは、まるでその時に戻っているようだった。

「ダーナさんは、目利きに厳しくてね。こちらが甘く見積もると凄く怒るの。あんた、ちゃんと見てないだろう?そんなんじゃ、こっちはやっていけなくなる。しっかり見ろ。ってね。」

ばぁさまの真似をして喋るマグリッドさんに、思わずばぁさまを思い出して笑ってしまった。

「それからも事あるごとに細かくお叱りを受けたわね。悔しくて泣いたこともあるけど、あのばばぁに負けたくないって踏ん張ったわ。」

昔のマグリッドさんから見ても、ばぁさまはばばぁだったんだな。

「でもね、作ってくるものは本当に超一流だった。回復薬も軟膏や丸薬に水薬と何種類も作るの。効果の出方や、飲む人によって選べるようにって。それについても、そんなことも考えられないなら薬師をやめろと言われたわ。あれは、本当にむかついた。」

ばぁさまが言いそうなことだ・・・私にも、辛辣だった。

「なのに、あの人の薬じゃなきゃ嫌だって人が多かったのよ。超一流の薬師で、魔術師で、最高級の付与魔術師で、貴族にもお抱えになれって言われるほどの人だったのよ?王都でも、偉い人ほどダーナ・エールを知っていたわ。こっそり教えてもらったのだけど、一時期は王宮魔術師団長をしていたと聞いたわ。王様と喧嘩して辞めたなんて噂もあったらしいわよ?」

あの人ならやりかねないと、2人で笑った。

「凄い人だったわ。色んな意味でね。私は、彼女に鍛えてもらったこと、感謝してるの。あなたが小さいころに一度だけ来た時、ダーナさん凄く嬉しそうにあなたのことを話していたの。だから、本当に驚いたわ。あの人のあんな笑顔、見たことなかったもの・・・来なくなって、心配してたのよ?本当に。来てくれて、ありがとうね」

ばぁさまが凄い人だった事には同意するが、マグリッドさんに見つめられて恥ずかしさで俯いてしまった。

「ありがとう」

私の言葉は、聞こえていないかのような沈黙に、小さくなって消えてしまったかと思った。

「・・・・!!!!」

突然抱きしめられて、声にならない驚きが目玉から飛び出るかと思った。

「いつでも、いつまでも、好きなだけ好きな時にここに来て。いつでも待ってるから。いっそ、ここに今すぐ住んでしまえばいいのよ!私にも、お金を出すくらいはさせてくれたっていいのに!」

とんでもないことを言い出したマグリッドさんを、私の体から引き剝がして残りのご飯を掻き込んだ。

お礼を言って、作業場に逃げ込んで、抱きしめられた温かさを思い出して幸せを感じた。

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