第51話 M
工房の主のフォル爺さんは、とてもよくしてくれる。
分からないことを聞けば教えてくれるし、実際に見せてくれる。
今回のように、独自の技術のためだと言えば見ることも聞くこともしないでくれる。
本来なら、工房に他人を入れることは珍しいし、技術を教えてくれる事なんてしない。
だから、随分と特別扱いをしてくれていると思う。
それがなぜなのかは、わからないけれど、ボロスが何か言ってくれたんだろうか?
そして、フォル爺さんはどこかじぃさまに似ている。
鉄の鍛え方、柄の拵え、昔じぃさまに作ってもらった小剣や鉈によく似ていた。
だからだろうか?私はこの工房にいるのが好きだ。
この工房に今お弟子さんは、一人もいない。
みんな巣立っていったと、フォル爺さんは言っていた。
私は、のんびりと自分の思う様に作業をさせて貰えている。
まさか、私の練習用の作品を棚に並べて売りに出しているとは思わなかったが・・・
私は、女将さんにお昼を出してもらって食べながら、フォル爺さんが自分の養父のじぃさまに似ていて安心すると言う話をした。
「ふふふ。マインちゃんのおじぃちゃんって、ドワーフのヴェルクさんでしょ?」
「なんで知ってるんですか?まさか、知り合いですか?」
女将さんの言葉に、思わずスープを吹き出しかけた。
「だって、うちの人の憧れの師匠だもの。ドワーフは長生きでしょう?弟子とも言えないような短い期間だったけど、教えても立ったことがあるんですって。」
じぃさまが弟子を取ったことがあるなんて話、聞いたことなかった。
もっと教えてほしいと言うと、知っていることしか喋れないけどと言って教えてくれる。
「まだうちの人が少年と言える年の頃にね、流れてきたドワーフが村の宿に泊まったんですって。鍛冶屋って職業の人にもドワーフにも初めて会った田舎の少年は、かっこいいと思ったそうよ。それで、押しかけて追い払われて、押しかけて追い払われて、隠れて覗き見て、押しかけ弟子になったらしいわ。」
ふふふと笑いながら話す女将さんの言葉に、なんとなく情景が浮かんで私もつられて笑ってしまう。
「結局、そこに留まって村の人たちの生活用品を直して路銀を稼ぐ間だけ、ちゃんと教えてもらったんですって。まぁ、ほぼ見るだけだったみたいだけどね。簡易炉しかなかったからって。」
じぃさんが昔、流れで村々を回って鍋や包丁や鍬などを直して回っていたのは聞いたことがある。
「簡易炉で、どんなことを教えてもらったんでしょうね。どうやってたんだろう?」
「あなたも職人ねぇ・・・鍋の穴の継ぎ修理や、刃物研ぎに、鉄の鍛え方は見ているだけだったけど教えてもらったって聞いたわ。鍛冶魔法も手解きだけは受けたんですって。」
本当に簡単な作業だけど、丁寧さが何よりも大切なことばかりだ。
じぃさまは、ちゃんとフォル少年を弟子と思っていたんだ。
「うちの人が最初に作れと言われたのが、片手鍋だそうよ。だから、うちに入りたい子はみんな作らされるの。売りに出されて1年で売れなかったら、その鍋で頭をこつかれてから作り直しなのよ?」
私も作らされた、そして店に並べられていた。
1年以内にリェースが買ってくれて、よかったぁ・・・
そんなところまで、じぃさまに似なくていいのに・・・
私も良く作品を作っては、その作品で頭をこつかれた。
フォル爺さんも、こつかれたのだろうなぁ・・・
「最後の日に、いつの間に拵えたのか解体用の小刀と戦闘用の小剣を貰ったそうよ。今でも、大切に使いながら持ってるわ。」
女将さんは、小刀と小剣が置かれているであろう2階を見上げて笑った。
フォル爺さんは、私が師匠の養い子と知って優しくしてくれたのかな。
じぃさま、あんたの押しかけ弟子だったフォル少年は、街で一番の鍛冶師になってるよ。
じぃさまの事だから、知ってたのかな?今となっては、わかるはずもないけど。
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