第45話 M

二日目以降も、イオルとキエクは、驚異の走りを見せた。

森を3日で駆け抜け、そこから1日半でガングリードまでたどり着いてしまった。

もちろん、私とリェースのお尻と太ももは、無事ではない。

皮が剥けて筋肉痛で、ややがに股になった私達を見て、いつのも口ひげ門兵さんがとても心配してくれた。

事情を掻いつまんで話すと、誰もが通る道だと笑っていい蔵を作ってくれると評判のお店を紹介してくれた。

ついでにラスバルさんの居場所を聞くと、「今は少し大変でなぁ。家に引きこもってるよ」と、言っていた。

何が大変なのか気になったが、聞かない方が良いような気がして何も聞かないことにした。

私たちは一先ず、前にも泊まらせてもらった宿に向かう。

今回はキエクもいるので、前より大きい部屋を女将さんにお願いした。

とりあえずで一泊分の料金を支払うと、久々に来てくれて嬉しかったからと明日の朝食は好きなものを作ってくれると言う。

私はパンケーキの目玉焼き添えを頼み、リェースは燻製肉のサンドイッチを注文した。

女将さんは、明日の朝を楽しみにしてね。と、笑って部屋の鍵をくれた。

荷物を置いて部屋を出ると、何故かボロスの所の御者さんがいる。

なんで来たのがわかったのかと聞いても、何も答えてくれないこの人は私たちを馬車に押し込んでボロス商店に馬を走らせた。

何も言わなくても、この人がいるとここに来ると分かっているイオルとスフェルは、初めて街に入ってキョロキョロしているキエクにこの街の色々なことを教えるようにゆっくりと着いてきた。

馬車が止まると、ボロスとマグリッドさんが出迎えてくれる。

マグリッドさんにリェースと2人して抱きしめられると、まるで自分の家であるかのように応接室に連れていかれて、座らされた。

この店の主人はボロスだっただろうと、彼を見ると苦笑いで気にするなと頷いた。

温かいお茶と相変わらずおいしいお菓子に、私たちの口の中は幸せになる。

その幸せのままに、納品を終わらせた。

2人は、一気に仕事人の目に変わり、商品を真剣に吟味し始める。

私たちは、おいしいお菓子と3匹の従魔に助けられて緊張の場面をやり過ごした。

ボロスとマグリッドさんは、程なくフーと息を吐いて優し気な目に戻った。

持ってきた全てを正規の金額で納品し終えて、今度は私とリェースがフーと息を吐いた。

目的の一つを無事に終えて、次はキエクの話をした。

闇魔篝蜘蛛の巣を見つけたこと、幸いにも闇魔篝蜘蛛に出会わずにキエクを助け出せたこと、治療するうちに懐かれてしまったこと、ガングリードで正式に登録をするつもりで来たことを話すと、ボロスとマグリッドさんが揃ってため息をつく。

「本当に、あなた達は波乱万丈と言うかなんと言うか・・・大変な目にばかり合うわねぇ。それで、闇魔篝蜘蛛はどうしたの?まだあなた達の家の近くに巣があるの?」

マグリッドさんは、立ちあがってまたも私達2人をまとめて抱きしめる。

もう何者かによって退治された様だと、小さな嘘をついて誤魔化した。

私たちは、この後冒険者組合に行くからと、小さく痛む心を隠してボロス商店を後にした。

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