第44話 R

ウェントゥに爆弾を投下されてから、3匹の食事に耳かき1杯分くらいの聖血紛を入れることにした。

マインに、やすりで削ってもらって、私の製薬用の乳鉢ですり潰して入れている。

様子見として1日1回に留めているが、3回目にして明らかにおかしい・・・

3匹とも、体がいきなり大きくなった。

スフェルは抱き心地がやや硬くなって一回り大きくなったし、イオルとキエクは大型猟犬でなく牡鹿の様な大きさになっている。

明日には馬になって、明後日は熊になって、その後は成獣になって、いつかウェントゥくらいになりそう・・・ちょっと怖い・・・

急成長も甚だしいこと、この上ないっ!と、マインと2人で聖血粉の効果に慄いた。

3匹の成長に驚きながらも、ガングリードへの準備も終わり、出発の日の朝。

試しにと、イオルとキエクに乗っていい?と、マインが聞いている。

「無理・・・?じゃない・・・?」

イオルは理解したように伏せて、簡単にマインを背中に乗せて立ち上がると、ゆっくり動き出した。

「リェース!うちの子、凄い!!そして、気持ちいい!滑らか、滑らか。あぁぁぁ、速度落としてぇぇぇぇ!」

マインは、褒められて調子に乗ったイオルに振り落とされて、お尻を強打していた。

キエクを見ると、既に伏せの状態で乗らないの?乗ってよ!とでも言いたげに私を見つめていた。

「落とさないでね」

私は、恐る恐るキエクの背中に跨った。

キエクは、すっと立ち上がると私が落ちない様にゆっくりと歩き出した。

・・・・・快適。気を付けて歩いてくれているのか思ったよりお尻も痛くならず、上下に揺れて気持ち悪くなることも無い。

森の中、イオルとキエクが居れば、ほとんどの魔物や獣は寄ってこない。

自分で歩いてないから、お尻と太もも以外の疲れも少ない。

もしかして、蔵や手綱を付けたら馬より早く走れるのでは?

隣でイオルに乗ったマインと目が合うと、何故か頷かれて思わず頷き返した。

持ち物が全て私とマインの魔法カバンに入っていることで、イオルとキエクの荷物は私達とスフェルだけという強行軍体制が整ってしまった。

その日の午後は、2匹が私たちの様子を見ながら少しづつ速度を上げていって、私達の落ちない速度の研究をしてくれていた。

怖くなって体が強張ると速度を落として、ふらつくと止まって休憩し、また歩き出すという繰り返しだった。

流石、魔獣なのか森での歩き方は慣れている様で、危なげなく進んでいく。

夕方に川まで辿り着いてしまうと、早めの野営の準備をした。

3匹は、タッと森に入って私達用の小さな兎を2匹と自分達用の大きな魔飛鹿を仕留めて帰ってきた。

有難く頂いてのんびり食後のお茶を飲む私達の隣に寝そべったり、膝の上に乗って寛いでいる3匹の様子を見て、これだけ見ると大きな猫と大きな犬と小さな兎そのものなのに・・・と、マインと笑い合った。

その日の夜は、魔鉄鷹に囲まれて寝た時のように暖かくて森の中だと言うことも忘れたかのように、ぐっすりと眠った。

翌日、私たちは2人揃って、見事にお尻と太ももが筋肉痛だった。

今日も乗れと言わんばかりに期待の目で伏せをして待つ2匹に、ありがたいやら痛いやらで、嬉しいやら悲しいやら・・・

マインと顔を見合わせて苦笑いしてから、2人で「よろしくね」と、2匹を撫でまわして騎乗した。

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