第43話 M

私達の通信魔導具を「スラテルポ」と名付けた。

手紙という意味の「スラト」と通信という意味の「テルポ」を掛け合わせた造語だが、ちょっと可愛い響きで気に入っている。

自分たちの分を作り上げてから4日、リェースに負担がかからないようにゆっくりと作り上げた。

ボロスとマグリッドさんの分の表側には何も掘らずにつるんとしたままにしておいた。

その代わりに、台座には商売繁盛と無病息災の紋様を彫り込んだ。

2人とも、立場のある人だからあまり可愛いのもどうかと思ったからだ。

同じ理由で鎖だけでなく、胸のポケットなどに留めておける様に脱着可能なピンも作った。

綺麗に包装もしたし、気に入ってもらえると嬉しい。

せっせと街に行くための準備をしながら窓の外を眺めると、上空を2羽の大魔鷹が飛んでいる。

そろそろ大魔鷹の恋の季節だなぁと、アルコと恋鳥ちゃんのことを思い出した。

ラスバルさんの事だから、ヒナが生まれたら食べてしまいたいくらい可愛いとか言って本当に口の中に入れてしまいそうだ。

・・・。笑えなかった・・・

不穏な考えを頭から振り払って、私は準備を続けた。

その頃、リェースには、すっかりリェースのポケットが居場所になったルフトゥの父親の心臓石にウェントゥから連絡があったらしい。

夕飯時に、リェースからウェントゥが明日の朝やってくると伝言された。

リェースは理由を聞いていないようで、どうしたのか2人で首を傾げた。

翌朝、ウェントゥが来たのは日が昇る直前の朝焼けが眩しい時間だった。

欠伸交じりに目を擦って歓迎すると、ウェントゥは「人族たちは、いつでも寝坊助なのですねぇ」と、笑っていた。

私もリェースも眠さで反論できないまま、ウェントゥに目的を聞いた。

「リェース、マイン、我らの住処に来た時のキングドレイクの血を覚えていますか?」

ウェントゥ達が何やら術を掛けていた覚えがあると、私は頷いた。

「覚えていてくれて何より。それが完成したから、お裾分けに来たのですよ」

ウェントゥがそう言って羽の隙間から取り出したのは、私が腕を回してもギリギリ足りないほどに大きな深紅の塊だった。

宝石か鉱石の様な硬いこの塊が何なのか、想像がつかない。

リェースもキョトンとして、塊とウェントゥの間を視線が行ったり来たりしていた。

「それは、我ら魔鉄鷹の保存食であり、あなた方には正に魔法の塊です。巨大で強靭な魔物の地を集めて魔力をかけ続けながら保存するとその様になります。我らは餌が無いときの食料としていくつか保存していますが、あなた方は食べない方が良いですよ?その代わりに、小さなかけらや粉状にしたものを従魔たちにほんの少しだけ毎日の食事に混ぜて食べさせると強い子に育つでしょう」

そう言ってウェントゥは、スフェル・イオル・キエクを眺めて目を細めた。

「そうそう、それの粉は、あなた方の言い方だと【命の聖血】と言われるものですよ」

とんだ巨大爆弾を投げ込まれた気分で私とリェースはウェントゥにお礼を言って、大事に3匹を育てることとこの塊を保存することを誓った。

多分、一生この塊の状態で人に見せることは出来ない。

死んだ人間ですら蘇らせると言う【聖血の水薬】の材料がこんな塊であるなどと誰かに知られたら、普通に命を狙われるどころか戦争を引き起こしかねない・・・

また、リェースの魔法カバンに封印されるものが増えた・・・

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