第27話 R

ボロスさんが、マインが作業させてもらう工房にお邪魔している間に私が手持ち無沙汰になるだろうからと、マルグリッドさんに私も調合室を貸してもらえるように話してあると言ってくれた。

商人とは、そこまで気が回らないといけないのかと只管に感心した。

私とマインは、ボロスさんの店から単独行動でそれぞれの場所に向かっている。

もちろん、過保護な商人さんが馬車を手配してくれた。

帰りは馬車がなくなるから絶対に遅くならないようにと、何度も念を押された。

ずっと一緒にいたせいか、1人で行動することが少し怖くなった。

私は、思いのほかマインに依存している。

少しずつでも改善しないと、いつか本当にマインのお荷物になりそうで怖い。

私は、スフェルをぎゅっと抱きしめて薬師協会までの道を足早に歩いた。

受付に座っているマルグリッドさんを見るなり、肩の力が抜けた。

ほぅと息を吐いて、マルグリッドさんに挨拶をすると、すぐに調合室に案内してくれた。

道具の場所などの説明を受けてから、早速薬を作り始める。

先ずは、冒険者達に渡した回復薬の補充から。

それから、塗る傷薬と毒消しを作って行こうと考えていた。

少しの間マルグリッドさんが作業を見ていたが、いつの間にか居なくなっていた。

予定していた回復薬や傷薬たちを作り終わるころに、廊下を歩く足音が聞こえた。

「そろそろ夕方も遅い時間よ?キリは付いた?お腹、空いてない?」

マルグリッドさんに言われて、私のお腹が大きな音で鳴った。

お礼を言って外に出ると、すっかり夜の街に変わっていた。

私は足早に歩き出したが、いつもより人通りが少なく感じる。

宿に向かう途中に、慌てて歩くマイン達を見つけた。

マインも思わず遅くなって、私を待たせていると思ったらしい。

2人で、時間を忘れる悪い癖だねと笑って食堂に入った。

食堂は、人が少ないとは言え賑わっていて安心した。

久々に根を詰めて作業したらお腹が減ったと、2人でいつもより多めの食事にがっついた。

いつもなら2つのパンを3つ、いつもはしないスープのお代わりをして、流石に食べ過ぎだと笑い合った。

宿に戻ると、マインが作ったものを見せてくれた。

それは、ルフトゥの産毛をガラスに閉じ込めて金と緋色の粉が煌めく装飾品だった。

「きれい・・・キラキラ・・・」

私が一つを手に取って、光にかざしたりのぞき込んだりする様子をみてマインが笑っている。

「それね、冒険者証をカバンやベルト通しに止めておける様にしてあるんだ。前にさ、可愛く邪魔にならないようにしたいねって話してたでしょ?見てて。」

マインが使い方の説明がてら、やって見せてくれた。

証と装飾の穴を一つの大きな輪に通して、もう一つ輪に通されて付いている開閉式の金具でカバンやベルト通しに止める仕様になっていた。

輪に通せる量の穴が開いている小さなものなら、増やしていける様だった。

私も、自分の魔法カバンの肩ひもに取り付けてみた。

揺らしてみると、ゆらゆらと揺れて、金具や証とぶつかって音がする。

音が気になるときは、カバンの外側のポケットに入れておけばいいとマインが教えてくれる。

私は頷いて、また揺らして音を鳴らした。

ゆらゆらと揺れて音が鳴ると、3匹がおもちゃと勘違いして狙ってきたので私とマインは3匹との攻防戦を繰り広げた。

遊んでいると勘違いした3匹の興味が薄れるまで続いた攻防戦は、何とか死守した私たちのギリギリの辛勝で終わった。

それによって体力を限界まで消耗した私たちは、布団に入るなり意識を手放した。

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