第26話 M

リェースは、何事無かったかのように笑ってくれる。

私は、優しい思い出も楽しかったことも、悔しさも憎しみも混ぜこぜになった感情に溺れてしまうところだった。

一緒に誰かがいてくれる、ただそれだけで救われたと思えた。

「ねぇ、リェース。いい加減、小さな空の王ではめんどくさくない?暫定だとしても、呼び名を考えない?」

私は、思い切ってずっと考えていたことを口にした。

この子を従魔になんてできないだろうけど、出来ればもっと仲良くなりたい。

リェースに気持ちを伝えると、私も同じ気持ちだったと言ってくれる。

じゃあ、素敵な名前を考えようと、2人でたくさんの候補を出した。

その度に、小さな空の王とスフェル・イオルの3匹は沈黙か飛んだり跳ねたりする行動で是非を教えてくれた。

30ほど考えたところで、私とリェースのお腹が鳴った。

私達は、下に降りて自分たち用のおやつと3匹用のおやつにお茶を貰って、部屋で食べるために戻った。

部屋に戻ると、窓辺に並んで晴れた空を3匹で見上げていた。

光が降り注ぐ中で、小さな空の王の金色の産毛が輝いていた。

「ルフトゥ・・・」

同じ光景を見ていたリェースの小さな声が、天の啓示の様に耳に入ってきた。

「いいね。ルフトゥ。かっこいい。」

「空って意味の古い言葉・・・いい。」

私達は3匹におやつだよーと声を掛けて、机に集まる3匹に「ルフトゥ」はどうかと聞いた。

3匹はそれぞれ、スフェルが飛び跳ね、イオルのシッポがバタンバタンし、小さな空の王は小さな羽を全速力パタパタと可愛い反応を返してくれる。

「リェース、どうやら気に入ってくれたらしいね。」

お互いに3匹の姿に笑って、小さな空の王改め「ルフトゥ」とおやつを食べた。


ルフトゥがパタパタと羽を動かすたびに、光が部屋に散ってすごくきれいだ。

私はそれを表現したくて前に貰ったルフトゥの産毛を加工するために、ボロスに場所を貸してくれるところは無いかと探してもらうことにした。

翌日の朝、宿の人に手紙を届けたいと言うと安心して待っていろと請け負ってすぐに届けてくれた。

なぜか私達は、街の人からしても保護の対象になっている気がする。

一応冒険者登録してあるし、案外戦える鬼人なのだが・・・と、少しもやっとすることがないでもない。

ただそれも心配してくれているのだと思うと、過保護にしないでと言い難いから困る。

その日のお昼過ぎに、私たちはボロスから呼び出された。

リェースとルフトゥは隠れててもらうことになるが3匹を連れて表に出ると、ボロスの店の屋号が入った馬車が待っていた。

外出の自粛の中の移動は馬車でしなさいと申しつけられました。と言って、御者さんは馬車の扉を開けてくれた。

正に過保護の極みだと、後で抗議する予定と心に書き留めた。

いつも通りの応接室とお茶とお菓子。

ボロスは、私の過保護についての抗議と不満を聞いて笑っていた。

「マインちゃんもリェースちゃんも、冒険者とは言え、まだ未成年の女の子だし非戦闘冒険者だからね。みんな過保護にもなるよ。生産職の女の子は、貴重だからね。」

「非戦闘冒険者?」

ボロスの言葉に、リェースと2人で首を傾げた。

「あれ?小冊子に書いてなかった?丸い証は生産職の非戦闘冒険者で、楕円が戦闘職冒険者。生産職でも採取とかで街の外に出るし、身分証みたいなものだから信用にも繋がるんだよ。」

2人揃って、なるほど・・・と納得した。

小冊子、貰ったけど読んでないままだったなと反省した。

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