第25話 R
マインと2人で読んだ手紙には、4人がドワーフの村に着いたこと、村が壊滅状態だったこと、伝えていたマインの家から取り出せたものを一緒に持たせたこと、村の人々の簡易的な葬送をしたことと、翌日には氾濫の端に辿り着いて戦闘状態に入るだろうことが書かれていた。
マインは、多分無意識にだろうが一緒に入っていた小さな箱大事そうに撫でていた。
とりあえず、この手紙を書いた時には全員が無事だったことが分かった。
手紙の日付から、4日前の話だと言うことも。
3日前に私たちは、森を出る手前で冒険者達に薬などを渡している。
どんなに冒険者達が早くても、2日ほどは4人で踏ん張っていたはず。
どうか、無事であってほしいと願った。
手紙の最後に、無事に街に着いたのか返事が欲しいと書かれていた。
マインと私はボロスさんに紙を貰い、走り書きで無事に辿り着いたことと無事を祈っていると書いて封をした。
手紙とボロスさんとマルグリッドさんが用意した薬や物資を一緒にアルコの胸のカバンにぱんぱんに押し込んで、アルコを送り出した。
アルコは大きく羽ばたいて魔獣魔術で風を起こすと、高く舞い上がって上空で一度旋回をしてから目的地に飛んで行った。
私たちは、それを見送ってボロスさんの馬車で買い物をしてから宿に送って貰った。
宿では、お利口に私たちを待ってくれていた小さな空の王に、食事をさせた。
肉類に好き嫌いは無く、野菜よりも果物が好きだった。
小さな葡萄を上手にくちばしで摘まんで捥ぎると、ぱくっと口の中に入れてしまう。
羽を伸ばして美味しさを表現しているような仕草は可愛らしくて、将来人の何倍も大きな魔鳥になるとは思えなかった。
「リェース、私少しあっちにいるね。」
マインは小さな箱をずっと大事そうに持っていたから、私は黙って頷いた。
きっと思い出の品だったりするのだろうなと、思う。
村のドワーフのことも、少なからず心を痛めているだろう。
マインが冷たい人じゃないことを、私は良く知っている。
私の家も、もしかしたら被害を受けているかもしれない。
大事な本たちを、持ってこれなかったことが不安で仕方なかった。
手に馴染んだ調合道具も、調理器具たちも、無事であってほしいと思う。
マインに駆って貰ったばかりの包丁は、まだ数回しか使ってない。
どうか早く家に帰れますようにと、祈りながら小さな空の王が葡萄を食べるのを見ていた。
マインがそっと声を殺して震えているのが、伝わってくる。
この部屋にいてもいいのか、出て行った方が良いのか、私の対人対応能力ではわからない。
こんな時にどうしたらいいのか教えておいてほしかったと、少しだけばぁさまを恨んだ。
キューイ!
突然声を上げた小さな空の王に驚いて、彼を見ると小さな羽をパタパタと動かしている。
スフェルとイオルは、その場でくるくると回っていて意味が分からない。
小さな空の王は、突然机の上を疾走すると飛び出して羽を動かしていた。
もちろん、飛べるわけもなく落下する。
「わぁぁぁぁぁ!」
慌てて手を指し伸ばしても間に合わず、彼は滑り込んできたイオルの背中にポスンと落ちた。
私の声で振り向いていたらしいマインが、後ろで声を上げて笑う。
「あはは。なんだ、この子は飛ぶ練習をしてたんだね。リェースがあんなに早く動くなんて初めて見たよ。」
私を見て、少し赤い目をしたマインが笑う。
「早く動ける・・・でも、イオルお手柄。」
私はワザとらしくふくれっ面をして答えると、イオルを撫でてお手柄を褒めた。
私は、さっきの鳴き声は「行くぞ!」の掛け声で、くるくる回っていた2匹は応援をしていたんだと気付いて、マインと笑いあった。
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