第23話 R
3日後、アルコが昼過ぎに現れた。
手紙の括りつけられた右足を差し出して、手紙を取らせるとすぐに飛び立っていってしまった。
私は、マインをすぐに呼んで、一緒に手紙を読んだ。
手紙はマグリッドさんとボロスさんからで、冒険者がすぐに徒党を組んで出発したことと、たくさんの人間が森に入ることから気を付けるようにと教えてくれた。
出来るならすぐにでも街においでと、書かれていた。
アルコはこの手紙を届けるために、寄り道をしてくれたんだ。
一度氾濫が起きれば小さな村など、簡単に飲み込まれる。
マインの住んでいた家も、無事では済まされないだろう。
マインが気にしている鉱山も、荒らされてしまうかもしれないし入り口が崩落している可能性もある。
あれからマインは、落ち着きなくひたすらに商品の作成に取り組んでいた。
私も、ありったけの薬草たちを使って回復薬を作っていた。
私たちにできることが、あまりにもなさ過ぎて落ち込んでしまう。
それがわかるのか、スフェルとイオルは私たちのそばを離れなかった。
手紙を読み終えても、2人とも何も言えなかった。
私は、マインと食卓に座りお茶を淹れた。
突然スフェルとイオルが、外に飛び出して慌てて2人で追いかけた。
外の出ると、大きな魔鉄鷹が2羽と小さなヒナが1羽並んでいた。
ヒナとスフェル・イオルは、走り回って遊びだしてしまって私とマインは、混乱から抜け出せていなかった。
『人の子と鬼人の子よ、聞こえていますか?私は、特殊な古の魔法を使って意思疎通を試みています。』
突然頭の中に響く声に、驚いてきょろきょろと見渡してから気付いた。
「あなたが魔法を使っているの?」
マインが向かって右側の大きな方の魔鉄鷹に、問いかける。
『そうです、鬼人の子よ。私は、あの子の母。以前、夫を助けてくれてありがとう。』
「いえ、何もできずに薬を提供しただけです。私ではなく、彼女が作ったものです。それで、それだけのためにここに?」
マインは丁寧に、返事をしていた。
私は、体の半分をマインに隠して覗き見ている状態だった。
『いいえ。違います。今この森は、わが子の誕生のせいで大きく混乱しています。空の王の誕生は、それほどまでに大事なのです。増して、わが子はここ数百年に一度のより特殊な個体として生まれました。私も特殊な個体ですが、王ではありません。私はあなた方に危険を知らせに来ました。』
魔鉄鷹の母親は、氾濫がより強く巨大な魔物を誕生させたことで、この森の地形を変えてしまうと言った。
『氾濫により誕生した魔物が、氾濫とは無関係に我らの一族の住処に向かってきています。私たちはこの森が気に入っています。一族と住処のために戦います。ですから、危険を知らせるとともにお願いに来たのです。』
お願いとは何ぞやと、マインと2人で顔を見合わせる。
『わが子をしばらく預かって貰えませんか?私も夫も一族と共に戦うことになれば、わが子を王を守るものが居なくなります。あなた方が一緒にこの森を離れて逃げてくれれば、後顧の憂いは在りません。存分に戦えます。』
私は、この魔鉄鷹のとんでもないお願いに、驚いた。
魔獣が人間に、願い事など聞いたこともなければ、きっと前例もないだろう。
「なんで・・・私たち・・・?」
私は思わず、疑問を口に出してしまった。
『魔毒虎の子に魔飛び兎、わが子が遊び相手に気に入っています。そして、あなた達は夫を助けてくれた。私のわがままですが、引き受けてくれませんか?必ず迎えに行きます。』
「私たちの友人が、氾濫の調査に向かっています。既に、街からも大勢の人間が氾濫を止めるために出発しています。彼らは、どうなりますか?」
マインは、魔鉄鷹に答えず、質問した。
マインは、怖がりな私と違って、こうゆう時にとても頼りになる。
『氾濫は、東に向かっています。対して私たち一族の住処は北。方向が違うので援護は出来ません。ですが、なるべく考慮して戦うと誓いましょう。助けになれないことを許してください。その代わりに、あなた方が知らせを出したいのであれば、友好的なものに届けさせましょう。』
マインは、その言葉を聞いて私を振り返った。
私が頷くと、マインは魔鉄鷹に是を伝え、手紙を書く間待ってもらうことにした。
私は、大急ぎでマインと内容を考え手紙に書き起こした。
書き終わった手紙を持って、外に出ると大魔鷹が居た。
アルコとは、違う個体の様でアルコより小さく感じた。
大魔鷹に手紙を託すと、すぐに飛び立っていった。
『約束は果たします。わが子をお願いします。』
小さな空の王に、語り掛けるような仕草をして顔を擦り合わせる親愛の行動をしてから魔鉄鷹の番も飛び去って行った。
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