第20話 M
ボロス商店の前に着いた時には、軽く一団が出来ていた。
遅い朝食をゆっくり食べて、生活雑貨を買い回り、お昼を食べて辿り着いた店の前には、ラスバルさん、ボロス、薬師協会の受付の女性に、アグリさんまで揃っている。
出発は明日だから、見送りもおかしい。
なんだろう?と、二人で小首を傾げて近づいた。
近づくにつれて、声が聞こえてくる。
娘っ子二人では心配だの、保護者がなくなったのに支援もできないだの、危険な森にかえすのか?だの、ちゃんと街で暮らす提案をしただの、嫁に欲しいだの。
どうやら一部を除いては私たちを心配して来てくれたらしい。
「みなさん、どうしたんですか?」
私はいつも通りリェースと手を繋いで、一団の中に割って入った。
「あぁ、マインちゃん。いやね、大荷物と材料を荷台に積んでいたらどこで聞いたのか二人の荷物と知ったこの人たちが集まっちゃってね。」
人の好さそうな優しい顔に、困っていると書いてあるかのようだった。
「なぁ、この荷物、森に帰るんだろ?今は繁殖期を過ぎて活発に魔物が動き出す時期だ。いくら魔毒虎がいるとは言え幼獣だし、危険じゃないか?」
「そうよ、ダーナさんもお亡くなりになって、森の家にはあなた達だけなんでしょう?何かあったら心配よ。」
「私の家で暮らしたらいい。みんなまとめて一生面倒を見るよ!さぁ、手を取って!」
三者三様の心配をしてくれている様だが、一人なんか違う気がする。
「ありがとうございます。でも、その森から来たのだし、これからは頻繁に来ようと思っているし、大丈夫ですよ?そして、ラスバルさんとは、誰も暮らしません。」
アグリさんと薬師協会の女性に笑顔で答えて、ラスバルさんには真顔で拒否を示した。
ボロスは笑いながら、そういうことだからしばらくは見守りましょう?と、まとめてくれた。
なんだかんだの末、帰り道の護衛に冒険者を付けることと何故かラスバルさんが警備を代表して同行すると決まった。
副隊長がそんなことを勝手に決めて大丈夫なのかと本気で心配すると、愛が伝わったんだねと訳のわからないことを言い出したので無視することに決めた。
薬師協会からは成人するまでの3年間買い取り額上乗せするから頻繁に顔を見せるようにと、決められた。
有無を言わさず決めたこの女性が、何気に協会長だったことに大きな衝撃を受けた。
一悶着が落ち着いて全員が帰ると、ボロスが大きなため息を吐いた。
「もぉ、来てもらいたくないね。目立つのは宣伝になっていいけど、あの人たちは存在が濃すぎる・・・」
ボロスのその言葉に、リェースとお腹を抱えて大笑いした。
笑いが落ち着いて商品の確認と清算をすると、明日の朝に詰め所の前に荷馬車を持っていくから間違えずにそっちに集合だと念を押されて頷いた。
ボロスと別れてから、リェースとスフェル、イオルと共に公園でのんびりした。
この数日間は、密度の濃い体験だったと笑い、ありがたく思い、少し寂しいねとリェースと手を繋いだ。
もう片方の手は、それぞれ従魔として登録した2匹を撫でていた。
森での静かな生活も、嫌いじゃない。
こんな風に賑やかなのも、悪くない。
いっそのこと寒い時期を街で暮らして、穏やかな時期を森で暮らそうか?と、提案すると、リェースは真剣に考えようと乗り気だった。
街に来ることが、少しでも怖くなくなったならよかった。
もう少し、リェースの人見知りが収まったら2人と2匹で街と森を行ったり来たりで暮らしたいな。
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