第18話 M

「この子たちと共に過ごすために必要なことを全て教えてもらいたくて、来ました。その他に、必要なことは一切ありません。」

私は、街に入るまでの短い時間で囁かれた鳥肌の立つ言葉達を思い出さないように必死だった。

とりあえず、この人は従魔については信頼出来て悪い人じゃない。

そう思っても、この敵意の無い笑顔が若干私の心に警告音を鳴らす。

自分の身も、スフェルとイオルも、無いとは思うがリェースも守らなくては。

その思いからか、必要以上にきつい言い方になってしまったかもしれない。

「少し言い方に棘を感じるけれど、大事なことだからね。しっかり!きっちり!伝授いたしましょう。私は君の美しさを、素直に表現しただけなんだけれどね。」

またもやこのエルフは、さらりと気障なセリフを吐いて芝居がかった言い方をする。

軽く眩暈を覚えながらも、必要なことを聞くことにした。


先ずは、冒険者組合で私たちが冒険者として2匹の従魔登録をすることが最初だと教えられた。

冒険者証は身分証にもなるから、持っていて損ではないとのこと。

それから、街中でしてはいけないこと、させてはいけないこと、気を付けることを教えてもらった。

リェースに書記をお願いして、書き残して貰うことにした。

字は読めるけど書く方は苦手で字が汚いと良くじぃさまに怒られていたから、私は今回書くことから逃げた。

その後は、この子たちの成長や食事・寝床などの生活環境に関しての質問に答えてもらった。

ラスバルさんは、従魔に関しては本当にいろいろなことを知っていて話は本当にタメになった。

結局夕飯どきまで時間を使い、腹時計がなるまで彼を質問漬けにした。

文句も言わず丁寧に教えてくれて、途中途中口説き文句を混ぜてくる以外はとても勉強になる時間だった。

私たちは、しっかりとお礼を言って詰め所を後にした。

「いつでもおいで」と笑顔で手を振ってくれる彼には申し訳ないけど、多分本当に困らない限りは来ることは無いだろうと2人で笑いあった。

知らなかったことや気になっていたことが概ねわかって解決したことで、私たちは今日もお腹いっぱいにおいしい食事を楽しんだ。

明日は生活に必要な物を買いにもう一度ボロスの所に行こうと約束して、布団に潜り込んだ。


翌日ボロスの店に行くと、またもやするりと応接間に通されて、お茶とお菓子を頂いた。

このお茶を気に入った様子のリェースのために、少し買って帰ろうと決めたところでボロスが顔を出した。

「いらっしゃいませ。お買い物のご相談だとか?」

彼の優し気な笑顔の中に、商人が顔を出した。

私たちが必要なものを伝えると、ボロスはまとめて請け負いますよ。と、言ってくれた。

大物は後日、リェースの所まで届けてくれるとまで言ってくれて大助かりでお願いすることにした。

提示された金額は、考えていたよりもお安くてびっくりした。

訳を聞くと、先行投資だと言って譲らなかった。

お茶を片手に雑談をしているうちに、すぐに持って帰れるものの用意が揃ってしまって、速さにもう一度驚いた。

残りは、2日のうちには揃えると約束を貰って、それまでは観光をして過ごすことにした。

ボロスは最後に、この街で工房と店を持って暮らすことを考えてみないかと言ってくれた。

私たちは、ゆっくり時間をかけて考えてみるとだけ答えて店を出た。

店を出て、昨日教えてもらった従魔登録をするために冒険者組合に向かうことにして、まだ明るいうちの街を、観光がてらにきょろきょろと見て回りながら歩いた。

イオルを連れて歩いていてもまだ小さいからか誰からも否定的な事は言われなかった上に、逆に触らせてほしいとか可愛いとかの言葉を貰って受け入れられたことに安心した。

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