第17話 R
ボロスさんは、穏やかそうな笑顔の優しそうな中肉中背の中年男性だった。
良くも悪くも、敵対心の無さを感じさせる人だと思った。
マインがおじいさんの事やここに来るまでの事を説明する間、私はスフェルとイオルと部屋の隅で遊んでいた。
マインに呼ばれて椅子に座ると、金貨が幾ばくか置かれていた。
マインを見ると、私が魔法を付与した装飾品が売れた分け前だと言う。
私は要らないと首を振ったけれど、綺麗な笑顔で貰ってくれないなら友達をやめると脅されて渋々受け取った。
そのやり取りを見ていたボロスさんは、終始笑顔で生温く見守ってくれていた。
恥ずかしさに、下を向いたのは言うまでもない。
「ボロス、今後も付与無し付与あり共に買い取ってもらえますか?彼女との合作はこれからも作りたいんだ。」
マインは、当たり前のように一緒にいると言ってくれる。
そのことが嬉しくて、下を向いたままでそっとマインの袖を掴んだ。
マインが気付いて、手を握ってくれたから余計に顔を上げられなくなった。
「もちろん!むしろこちらからお願いしたいです。どうぞ、よろしくお願いしますね。」
ボロスさんの言葉に、マインが肩の力を抜いたのがわかった。
「あ、そうだ。あと、従魔術に詳しくて色々教えてくれる人とかいないかな?あの子たちのことを色々聞きたいんだ。」
マインがスフェルとイオルを見ながら、聞いていた。
「おりますが・・・その・・・まぁ、何と言いますか・・・信用できる変態・・・でもよろしいですか?」
聞いたことのある「信用できる変態」と言う言葉に、思い当たる人は一人。
あの人かぁ・・・思わずマインと顔を見合わせてため息をついた。
私とマインは、結局諦めてラスバルさんの元を訪ねる決心をした。
主に被害を被るのは、マインなので私はあまり気落ちしてはいないのだが・・・
店を出るときの見送りに出てくれたボロスさんから、ポンポンと肩を叩かれたマインがガクッと膝から崩れ落ちそうになっていた。
そして、そのマインの沈み込み方が、えぐいことになっている・・・
目が笑ってない、繋いだ手が冷たい、声がいつもより低い。
テクテクあるくイオル、トボトボ歩くマイン、呑気に腕の中で寝ているスフェル、どうしてあげたらいいかわからない私。
2人と2匹は、ボロスさんの店から門兵の詰め所までを無言で歩いた。
程なく辿り着いた詰め所の前で、マインは3回深呼吸をしていた。
「こんにちわ・・・ラスバルさんはいますか?」
マインの声が、消え入りそうになったことなど見たことが無かった。
珍しいものを見たような顔で詰め所にいた兵士5人から、無遠慮な視線を投げられてやや辟易した。
すぐに奥の扉から、色々な汁が付いたエルフの綺麗な顔が出てきた。
彼はすぐに引っ込んで、またすぐに綺麗な顔のすました表情で出てきた。
「失礼したね。従魔と遊んでいてね。さて、いらっしゃい。」
副隊長室と書かれた扉の部屋に、案内されて躊躇しながらも入ることにした。
すぐにお茶が運ばれていて、広くてフワフワの床とふかふかの椅子に緊張しながらも頂いた。
「それで、用件は?私は、用事が無くても大歓迎なのだけれど・・・その2匹の事かな?」
この爽やかな笑顔の美丈夫に対しての、変態についての証言は2つ。
1つ目、口ひげ門兵さんからの証言。
「長身で細身の気の強そうな、成人前の女性が好みで妙に纏わりついてくるから気をつけろ。」とのこと。
これには、マインが当てはまる。
2つ目、商人ボロスさんからの証言。
「鳥類、偶蹄類、犬系、猫系関係なく、節操なしのモフモフ好き。女性よりむしろモフモフの方が好きかもしれないから気を付けてください。」とのこと。
スフェルとイオルが当てはまる。
つまり私だけのけ者な訳だが、ある意味ありがたいのけ者だと言うことが申し訳ない。
全く敵意の無い笑顔を見ながら、一種の恐怖をほんのりと抱いた私だった。
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