第16話 M

結局、夕方近くまで時間を割いた。

アグリさんに宿を紹介してもらい、商人の店の場所を聞き、おすすめの食堂の割引券を貰って別れた。

何やら、私たちには口の挟めない問題の解決に近づいたと、随分お礼を言われた。

自分の名前を出せば、割り引いてもらえるように宿にも手配してくれるとまで言われて、逆に申し訳なくなる始末だった。

私たちは、リェースの薬を売るために隣の建物に入った。

納屋で嗅いだのと似た匂いが充満していて、ありとあらゆる素材が至るとこに置かれたりぶら下がったりしている不思議な空間だった。

「売りたいのですが、大丈夫ですか?」

リェースの手を引いて、受付の女性に確認した。

「出していただけますか?って、あら?あなた・・・ダーナさんと昔ここに来た子じゃない?」

女性は、魔法カバンから薬をひたすら出してるリェースの顔を見て言う。

「・・・・?」

顔を上げて、リェースは小首を傾げた。

「・・・・・お砂糖な花?」

何かを思い出して合点がいった風で、リェースが答えた。

「覚えててくれたのね。そう、お砂糖のお花のお菓子を一緒に食べたわね。懐かしいわ。大きくなったのね。ずっと見ないから心配してたの。ダーナさんは?」

女性は捲し立てる様に、喋っていた。

リェースは、おばあさんの話をゆっくりと丁寧に話していた。

女性リェースが言葉に詰まることもわかっているのか、焦らせることなく聞いてくれていた。

「そう・・・ダーナさん、残念だわ。凄腕の薬師兼魔術師兼付与魔術師だったのに。私も駆け出しの時には、随分お世話になったのよ?」

彼女は、リェースの頭を撫でながら、悲しそうに眼を伏せていた。

「じゃ、今度からあなたが来てくれるのね?」

気を取り直したのか、にっこりとリェースに笑いかけた。

ほんのりと圧を感じたのは私だけではなかった様で、リェースもコクコクと頷いていた。

彼女がそのまま買取してくれて、なかなかの金額になった。

私たちは、アグリさんに紹介してもらった宿に行って部屋を確保した。

ありがたいことに、スフェルとイオルも部屋にあげていいと言ってもらえた。

食事は朝食だけは出るらしく、お腹の空いた私たちは夕飯に出かけた。

街は華やかな夜の気配の支配されて、屋台や食事処は多くの人で賑わっていた。

明日は、商人の店を訪ねると決めて、私たちは滅多に来ない街の観光がてらの食事と夜景を楽しんだ。

アグリさんおすすめの食堂での串に刺さった魔飛鹿焼きも、野菜が薄い焼きパンに包まったものも、食べる全てがおいしかった。

果実酢を氷と炭酸で薄めた飲料は、酸味が肉やたれのくどさを消してくれてお気に入りになった。

リェースに頼んだら、帰ってから作ってくれると約束してくれた。

満腹で宿に戻った私たちは、柔らかく暖かな布団の魔力にあっさりと陥落した。


翌朝の私たちは、焼き立てパンの匂いですっきり幸せな寝起きを味わった。

焼き立てパンとスープをゆっくり味わってから、もう一晩のお金を支払って出かけた。

目指すのは、商人ボロスの店。

場所を聞いておいたことが幸いして、特に迷うことなく辿り着いた。

「こんにちわぁ。」

私は、今日もリェースと手を繋いで店の敷居を跨いだ。

「はい。いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょう。」

流れるような口調の店員さんに、店主ボロスに用があることと自分の名とじぃさまの名を告げる。

店員さんは確認して参りますと私たちを応接間に案内してくれて、消えたと同時に別の人が私たち用の温かいお茶とお菓子にスフェルとイオル用の水を持ってきてくれた。

私たちは、その対応にそわそわと落ち着かないままお茶を飲んで待った。

「マインちゃん!」

ものの数分でバタバタと足音を立てて、扉をバタンと開けて入ってきたのは、うちに来ていた商人ボロスだった。

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