第13話 R
森を抜ける前日の夜になって、事件が起きた。
「くるなあぁぁぁぁぁ!」
突然の叫び声に、マインと2人で飛び起きた。
スフェルとイオルは、もう少し前から警戒していたのか私達を守るように声のした方に向いて緊張していた。
暗闇に目を凝らすと、どうやら男性が魔物に襲われている様だった。
男性は、私達を見つけたのか猛然とこちらに走ってくる。
私達は、きっとその後を追いかけてくるであろう魔物に臨戦態勢で身構えた。
「にげろおぉぉぉぉ!」
男性は、私達に警告を発した瞬間に宙に舞った。
男性を宙に舞わせたのは、大きな魔鉄鷹だった。
普段は、集団で森の奥の岩山で生活する大型の魔鳥類。
金色の瞳に金の嘴、濃い茶色の翼と黒い鷹斑。
その爪は、鉄の様に岩を削り獲物に深く食い込んで捕獲する。
この森で、1・2を争う強さの魔物だった。
「なんでっ!」
何故繁殖期に、岩山でなく森の境目に近いところに居るのか・・・思いついた答えに驚愕した。
「マイン!はぐれ!!」
魔鉄鷹には、稀に集団からはぐれて繁殖する番がいる。
はぐれ番の子は、金の瞳に赤い光彩を散らして、鷹斑は光で金に輝く白。
通常個体の倍近い体格に、それに見合う強さを持つ鷹の王「金王鷹」になると言われている。
珍しさから捕獲討伐の対象になることがあるが、並大抵の冒険者では打ち取れない。
今、空の上で星になった男性も、一攫千金を狙った哀れな冒険者であったのだろう。
「逃げる!!早く!」
一匹いると言うことは、もう一匹いる。
マインに早く逃げようと言って手を引くと、動かなかった。
不思議に思ってマインを見上げると、彼女はどこかを見つめていた。
「リェース、あの魔鉄鷹は怪我をしている。そして、何かを庇っている。右の翼の付け根に何かいる。」
その言葉に、魔鉄鷹の右の翼の付け根に目を凝らした。
「ヒナ!」
まさかの、金色に赤い光彩の瞳。
「リェース、見えた?ヒナがいるのに、番の姿がない。あの個体も、こちらを窺って動かない。急に動いちゃだめだ。狙われる。」
マインの言葉に、ゆっくり頷いた。
しばらく睨み合いの拮抗が続いたが、ヒナの甲高い鳴き声で崩れた。
ヒナと共にゆっくりと地上に降りてくる様は、悠々として圧巻だった。
親鳥は、左の足と瞳・頭部に怪我をしていた。
私は、ゆっくりとした動作で慌てて引っ掴んで出てきた魔法カバンから、傷薬の薬瓶をスフェルに1本渡した。
理解したのか、スフェルはゆっくりと魔鉄鷹に何かを教える様に器用に開けてそれを飲んだ。
魔鉄鷹が襲ってこないことを確認して、さらに4本をスフェルに渡して届けてと伝えた。
ゆっくりとゆっくりと魔鉄鷹に近づくスフェルの真似をしながらイオルもついていった。
2匹は、魔鉄鷹に近づくと薬瓶を地面に置いて、じっと大きな魔鉄鷹の動きを待った。
私とマインは、息も忘れてそれを見守っていた。
きゅいーーーーーー!
甲高い声が響いて、大きな魔鉄鷹の体から小さな塊が転げ落ちた。
甲高い声の持ち主は、小さな体で一生懸命薬瓶を親に持って行こうとしている。
いじらしくて可愛らしくて、マインと2人ふっと顔を見合わせて微笑んだ。
ヒナの行動を見ていた親鳥は、そっと嘴で薬瓶をつまみ上げて器用に薬を喉に流し込んだ。
4本全て飲み切ると、こちらを見てから目の前の2匹を見て、自分の羽を1本嘴で器用に抜いて2匹に持たせるような仕草をした。
魔鉄鷹の羽は、大きくしなやかで丈夫な武器の芯になる貴重な素材として有名だった。
それを見たヒナが、一生懸命自分の羽を引っ張っていた。
力が足りないのか、抜けずにコロンと頭から転がってしまった。
堪えきれずに、吹き出してしまった。
隣をから肩を震わせて、口元を袖で覆っているマインの気配がする。
小さな鷹の王は、親の力を借りて小さな金色の羽を2枚抜き、それも持って行けとばかりに2匹に差し出した。
私達は、降りてきたときと同じく、悠々と舞い上がって飛び去って行く後ろ姿を見ながら生きていることと素敵なお礼に感謝して、膝から崩れ落ちた。
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