第12話 M

出発前最後の夕飯は、豪華だった。

リェースは、何故かとても上機嫌でたくさんの料理を拵えていた。

曰く、日持ちのしないものを一気に使ったから、だそうだ。

パンパンに膨らんだお腹の2人と2匹で、居間のソファで寛ぐ時間が至福と思えた。

私は、重たいお腹に力を入れてリェースに向かい合う。

「リェース、貰ってほしいものがあるんだ。」

私の言葉に、キョトン顔のリェース。

「なに?どうした?」

「ん?ん~、今までのお礼とか、これから宜しくとか、大切な友人に出会えた感謝とか、まぁなんか色々かな?」

私は、曖昧な言葉に照れを隠して、腐食防止の処理をした銀の耳環を差し出した。

銀に彫ったのは、ミリオスタルの花の意匠。

沢山の花をつけるこの花の花言葉は「たくさんの思い出」「友情」。

思いが伝わればいいなと思いながら、リェースの様子を確認した。

「ミリオスタル?赤いの、さっきの?」

キラキラと目を輝かせながら、早速石に気付いてくれる。

「そうだよ。さっきの魔眼石。花の4枚の花弁が私たちで、石は4人を繋ぐイオルのお母さん。それから、蕾たちはこれから作る沢山の思い出。気に入ってくれた?」

私の一つ一つの説明に首をコクコクと動かして聞いてくれている様子が、おもちゃを貰った時の子供に似ていて可愛らしい。

「ありがとう・・・ほんとに・・・」

「喜んでくれたなら良かった。スフェルとイオルにもあるよ。おいでぇ」

片耳ずつの耳環を見せると、2匹とも早く付けろと言わんばかりに迫ってきた。

自分の分も耳に付けて4人でお揃いだと言うと、リェースが飛びついてくる。

それに釣られたのか遊びと思ったのか2匹も飛びついてきたから、支え切れずに後ろに尻もちをついた。

びっくりした2人と2匹で、吹き出してからはしばらく笑い声が続いた。

明日は、出発だから楽しい思い出になって良かった。

きっと、新たな門出にふさわしい夜になったはず。

荷物の最終確認をして、布団に潜り込んでからはニヤニヤ笑いが止まるまで耳環を触っていた。


翌朝は、早朝から快晴でなんとも旅日和となった。

荷物のほとんどが最高級魔法袋に入っていて、森を歩くにはかなりの軽装な2人と2匹の旅が始まった。

午後になって、リェースの歩みがガクンと遅くなった。

ゼーゼーと荒い息をしながら、重たそうに足を上げて下す作業を繰り返している。

まさか、ここまで体力がないとは・・・

イオルが後ろからリェースのお尻を押すように歩いているのが印象的で笑いを誘う。

森に闇の帳が落ちる前に、寝床と食事を用意する。

リェースは、その間ほぼ役立たずになっていた。

予定の3割を残しての1日目は、リェースの体力の無さを露呈して終わった。

日が経つにつれて慣れてきてはいたが、予定では森を出るまで5日の道のりを既に7日歩いている。

道中スフェルとイオルは大活躍で、水・肉・キノコの確保には困らなかった。

何より、日に日に大きくなるイオルの魔毒虎としての存在感で弱い魔物を引き寄せずに歩けたことがリェースには幸いして、体力の温存が出来る様になってきた。

あと1日あれば森を抜けられると目途がついたところで、早めの寝床を確保することにした。

森の中では大活躍の2匹でも、冒険者が多くなる森の外では討伐の対象になりかねない。

商人から聞いた知識で従魔の証の耳環を付けてはいても、討伐対象になりやすい魔飛び兎と、滅多にお目にかかれない素材の宝庫である魔毒虎では、何があるか分からない。

用心に越したことは無いと、みんなに話す時間が欲しかった。

話し合いの末に、明日森を抜けてからは街道を避けて回り道で7日かけて街を目指す。と、決めて眠りについた。

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