第11話 R

マインは、昨日の丸一日と今日の午前中を作業場にした納屋に引きこもって作業している。

食事と、イオルの様子見くらいの時間しか母屋には帰ってこなかった。

職人さんというものは、こうも他事をスパッと忘れてしまえるものなのかと感心してしまう。

私も薬草を作るときには集中するけど、それよりも読書の方が時間を忘れている。

マインは、ちゃんとご飯時に自分で帰ってきてくれるので安心できるのが嬉しい。

私は、呼ばれるまで動かないことが多いから、ばぁさまに何度も怒られたっけ。


「おかえり。お昼、もうできる。」

スープを皿に移そうとした時に、丁度良くマインが帰ってきた。

「持つよ。ただいま。」

スープの入ったお皿を、渡して自分の分を持って二人で机に向かった。

2人と2匹で食事をするのも慣れて、イオルも大人しく自分の分に齧りついている。

「リェース、悪いんだけど午後から付与魔法をお願いできるかな?土台は作り終わったんだ。」

マインは、白パンを千切りながらにっこりと笑う。

きっと、いい出来の品物が出来上がったんだ。

私も、気合を入れて付与しなきゃ。失敗できない。

気合を入れて頷くと、マインの笑みが深くなった。


お昼の後は、二人で作業場に移動した。

マインの作った作品はどれも、作りや飾りは簡素で普段使いに丁度いい可愛らしさの物が多かった。

小さなものは髪留めや耳飾りが多く、他の装飾品は冒険者用と思われる剣や杖を握るのに邪魔にならない腕輪の類いが多かった。

安くたくさん買えるような普段使いの物には、付与は要らないと言う。

代わりに「秘密のおしゃれ」のために意匠を凝らしてあると言っていた。

確かに良く見ると繊細な模様が彫ってあったり、見えない所に凝った細工がしてあるもが多かった。

私に頼みたいのは、冒険者用の腕輪への身体強化や属性と異常状態への耐性付与、外套留めに魔物除けや虫除けの付与との事だった。

思いのほか沢山出てきた品々に、せっせと付与魔法をかけ倒していった。

最後にイオルの母親の両眼に魔力で圧力をかけると、キラキラと輝く赤色の宝石のように変化した。

とても綺麗で、思わずしばらく見とれていた。

マイン曰く、魔力加工された魔物の瞳は魔眼石と呼ばれてそれ自体に幸運と厄除けの効果があるらしい。

どの魔物の瞳でもいいと言うわけではなく、冒険者用の護符の素材として人気があるとの事だった。

「ありがとう、本当に助かったよ。後は、仕上げをしていくから先に戻って。」

マインはそう言って、魔眼石を手に取ると職人の顔になっていた。

私は、そっと納屋を出て、空を仰ぐ。

魔力切れになったことは無いけれど、久々に真剣に魔法付与をした高揚感が私に若干の気怠さを与えていた。

母屋に戻ると玄関が開きっぱなしになっていて、2匹が外に遊びに行っていることを教えてくれた。

私は、一人でお茶を淹れて誰も居なくなった居間を見る。

森の声と風の音以外の音は無く、がらんとしていて、もの悲しい。

すっかり、独りぼっちの寂しさを忘れてしまっていた自分に驚く。

(こんなに寂しい家だったんだなぁ・・・もう、一人は嫌だな・・・)

私が日が陰って2匹が帰るかなと、夕飯の支度に台所に戻った時に丁度良く2匹が体に葉っぱをまとわりつかせて帰ってきた。

その姿に大笑いしていると、マインも母屋に戻ってきて二人でキョトンとしている2匹に癒された。

やっぱり独りぼっちはもう絶対に嫌だなと、改めて思った。

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