第10話 M
その夜は、リェースと2人で遅くまで夜更かしをした。
外でのお茶から、居間での本格的なお茶会になった。
お互いの養父母の話、趣味や苦手なこと。
最後に、これからはなんでも話し合おうと決めて、お互いの寝床に入ったのは空が白み始める頃だった。
案の定、2人とも朝寝坊した。
スフェルとイオルは、よくできたもので自分たちで狩りに出て朝食を済ませていた。
いつの間に、玄関を開けれるようになったのかとリェースと2人で首を傾げて考え込んでしまった。
スフェルとイオルは、それを見て開け方を実演してくれる。
先ずスフェルが玄関の取っ手の上に跳ね上がって取っ手を下げる。
見計らったイオルが体当たりで扉を押し開ける。
帰ってきたときのために、全開にした扉が閉まらない様にスフェルが重しを転がしてきて留める。
2匹の息の合った行動に、感心した。
ただ、雨の日と風の強い日は絶対に寝坊できないと、リェースと頷き合った。
2人で昼前の朝昼兼用の食事をしたあと、街でリェースが売りたいと言っていた薬たちの整理をする。
作業中、私が夜な夜な作っていた物の話になった。
今まではじぃさまが付与魔法をかけてくれたが、それがない今はただの装飾品だと言ったらリェースが付与してくれるという。
有難くお願いして、イオルの育児で中断していた作業を、また始めることにした。
売り物と作業中の物と備蓄用を分けて整理すると、売り物が殆どだった。
これが無くなったら、この納屋は空になるのではないかと思えた。
「行かなきゃとは思ってた。一人は怖くて。マインがいてくれるなら。」
申し訳なさそうにうなだれるリェースに、一緒なら大丈夫と請け負って笑う。
荷物はどう運ぶのかと聞いたら、凄いものが出てきた。
おばぁさんの遺作だというソレは、王都なら3年は遊んで暮らせるだけの価値がある。
じぃさまが唯一出来なかった付与魔法、空間魔法を付与した空間庫機能付きの魔法カバンだ。
私が持っているじぃさまの魔法カバンは、リェースの持っているカバンの半分も容量は無いだろう。
小さなものでも、二月は慎ましく暮らせると言っていた。
空間魔法が使えるのは魔法使いではなく魔術師で、その中でも才能がないと使えないという。
力量次第で容量は増えるが、ここまで入るカバンはきっと滅多にないはず。
つまり、リェースのおばぁさんは稀有な魔術師だったことになる。
そんな人が、どうしてこんな森に隠れる様に生きていたのか・・・
リェースも知らないらしいが、疑問に思いながらもじぃさまの事を思えば人生いろいろあったのだろうということで落ち着いた。
売り物のほとんどを、魔法カバンに収納してがらんとした納屋で一息つく。
リェースは、作業場として使っていいと言ってくれたので、出発は3日後と決めて今日明日で品物を作って付与してもらうことにした。
夕食後、納屋の明かりを灯すと作りかけの髪留めと材料に器具たちを作業台の上に並べた。
全て並べての作業は、久々で嬉しい。
私は結局、これしかできないし、この仕事が好きだ。
有難いことに普段使いの装飾品は、ご好評を頂いているらしく定期的に依頼が来ていた。
私が森に入ったのも、依頼をくれていた商人の男性に会うために西の街に行こうと考えたからだった。
彼が年に2回じぃさまを訪ねて来ていたから、今までならその時に渡せていたけど、追い出されてしまったからには、こちらから行かなければ会えないし渡せない。
じぃさまが死んだことも伝えなければいけないし、今後の相談が出来るのも彼だけのような気がしていた。
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