「キミに届け」と思いながら
野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中
第1話 小さな孤独と日々の日課でたまたま見つけたたった一つ
ツイッター画面は日々、人の日常で賑わっている。
上京し、一人暮らしが始まって約半年。
一種の開放感のようなものはあるけれど、それと同じだけ孤独も付きまとうようになったような気がする今日この頃。
社会人になって確かに新しい人との出会いもあったけど、その殆どが同僚や上司、仕事関係の人間だ。
あくまでも仕事上の関係だから、どれだけ仕事の合間に親し気な会話を交わしていても仕事は仕事、プライベートはプライベート。
そんな意識が拭えずに、『友人』というカテゴリーにしっくりと来るような新規参入者は結局のところ一人も居ない。
多分それが普通なのだ。
この孤独もきっと誰もが大人になれば少なからず通る道で、それだけ俺も大人になったって事なんだろう。
身を丸くしながら少し冷たい布団に潜って、そう独り言ちる。
既に夜のとばりは落ちている。
電気を消した今、光なんて液晶のソレだけだ。
都会だから窓を見遣れば外に明かりは見えるだろう。
だけどそっちを眺めるよりも、液晶の中の人の心の欠片を覗く。
ツイッターを始めたのも、会社付き合いが始まった後の事だった。
周りの人のほとんどがツイッターをやっていて、出社すると毎朝仕事までのわずかな時間に『昨日のトレンドワード』や『炎上話』で盛り上がる。
新しいコミュニティーに入りたてという事もあって、話に着いて行く努力として俺も始める事にしたのだ。
そんな訳だから、特に呟きたい事も無い。
突然「呟け」と言われても、何を書けっていうんだろう。
きっと何でも良いんだろうけど結局何も書く気になれず、俺のアカウントは一見すると『作ってみたはいいものの、まったく稼働してないやつ』風。
フォロー数が0の代わりに、当たり前だけどフォロワー数も0である。
そんなわけで今日も相変わらず何の気なしにトレンドツイートを確認し、その後は誰とも知らない人のツイートを暇つぶしに流し読む。
こうして色々見ていると、改めて「この世の中にはいろんな人が居るんだなぁ」と思わせられる。
日々が幸せに満ちている人も居れば、歯を食いしばって頑張っている人も居て。
自分の中に確固たる意志を持ってる人も居れば、周りに相槌ばかりを打ってるような人も居る。
喜んでる人。
怒ってる人。
悲しんでる人。
楽しんでる人。
沢山の感情のごった煮を「無秩序だなぁ」と思いつつ、定速でただスクロールする作業を続ける。
だから多分、そのツイートが目に留まったのはただの偶然だったんだろう。
「つかれた」というたった一文。
その言葉にスクロールの手が止まった。
絵文字もなければ句読点もない。
ただの平仮名、たった四文字。
――他のツイートからは見える感情というものが、この言葉からは何故か削げ落ちてる。
そんな風に俺には見えた。
ストレス社会だからきっと、「疲れた」なんて誰もが一度は思う事だ。
言葉自体はありふれている。
だからこれも、ただの『日常生活では吐き出しにくいストレスをここで吐き出した』というだけかもしれない。
そんな風に思う反面、それでも何故かこの四文字に妙な危機感を抱く自分も居る。
感嘆符も無ければ伸ばし棒もない。
それどころか変換さえされていない。
それが何となく言葉にならない悲鳴のように見えてしまった。
誰もが疲れる事はある。
けど、大人になればどうってことなくっても、子供にとってはまるでそれがこの世の全てのように思えてしまう。
大人だけを掬い上げても、受け取り方は人それぞれだ。
誰かにとっては気にならないような事でも、他の誰かにとっては耐えられない事かもしれない。
俺自身、前者は大いに心当たる。
その時俺には、助けてくれるヤツが居た。
――でもこの人は?
そう思うと、何かをしないといけない気がした。
取り越し苦労ならそれで良いのだ。
それならただの笑い話に出来るから。
結局そう思い至って、何かをする事に決めた。
だけどどうしたら良いんだろう。
こちとら『初、ツイッターへの書き込み』な上、顔も見えなければ状況も何も分からない相手への第一声だ。
ハードルが高くない訳がない。
横向きだった体をゴロンとうつぶせに変え、両肘をついて画面と向き合う。
最初に打ったのは「大丈夫だよ」という言葉。
だけど打って、すぐに消す。
一体何が『大丈夫』なんだ。
何も知らない人間が、無責任にも程がある。
自分がしんどい時とかに、何も知らない相手からは俺なら絶対言われたくない。
次に打ったのは「元気出して」。
でも打つ途中でやっぱり消した。
他人事過ぎて失笑ものだ。
平常時なら露知らず、どん底かもしれない相手にこんな薄っぺらな一言だけを掛けられて、一体誰が喜ぶんだよ。
これなら打たない方が良い。
そんな感じでツッコミと一緒に呑み込んだ言葉が、一体幾つあったのか。
結局全部ボツになって、俺はハァとため息を吐く。
自分の言葉知らずに落胆だ。
過去に手を差し伸べられた。
なのに今、それをうまく返せない。
そんな自分がもどかしくて、どうしようもなく歯がゆく思える。
――あの時のアイツは何の臭さも鬱陶しさも、押しつけがましさもゼロだった。
スッと心に沁み込んで、自然と「救われた」と受け入れられた。
あの時他にもたくさんの人が、俺に声をかけてくれた。
だけどアイツたった一人だ。
俺が素直に言葉を受け入れられたのは。
そこまで昔を思い出して、ハッと思いつくものがあった。
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