第30話

 「よし、復活した。じゃあ行こうかマルス。」


 精神的ダメージが回復し、俺は立ち上がりマルスに声をかけた。


 「お、おう。大丈夫か? 別に明日からでもいいんだぞ?」

 「いや、任務は早く終わらせたいしな。さっさと行こう。」


 胸にバッジを付け、剣を持った俺はマルスと共に街へと繰り出した。



 商業地区の中央広場に着いた俺達は、いつもと変わらない平和な風景を見ながら、


 「まずはどこから調べるよ?」

 「そうだなぁ。マルスの家の近くで今回の薬の話とかって聞いたりした事あるか?」

 「俺は聞いた事ないな。ってゆうか、どんな薬かも俺達聞いてないぞ?」


 言われてみればそうだな。どうしようか。

 任務の紙を見ても何も書かれてないし、情報が少なすぎるな。

 ダメ元で一回教官に聞いてみるか。

 俺はマルスを見て、


 「このままここに居ても仕方ない。教官に電話してみるか。」

 「そうするか。アレクは教官の番号知ってるのか?」

 「任務の紙の下の方に書いてある緊急連絡先って所を見たら教官の名前が書いてた。」

 「おっ、そうなのか。じゃあかけてくれよ。」

 「わかった。」


 携帯を開き、ロック教官に電話をしてみる。

 何回かコール音が鳴った後、ロック教官と繋がり、


 「もしもし。」

 「教官ですか? アレクです。少し時間良いですか?」

 「アレクか。あぁ、大丈夫だぞ。どうした?」

 「ありがとうございます。今、マルスと任務で街に出ているんですけど、今回調査をする薬の事を何分かっていない事に気付いたんで教えて欲しいと思い電話しました。」


 電話越しに教官からため息が聞こえ、


 「あのなぁ。普通は一番最初の任務説明の時に聞くもんだぞそれは。俺は何も聞いてこないから、二人は知ってるもんだと思って説明したんだがな。」

 「すいません。以後気を付けます。」

 「初めての任務だから許すが、本来なら減点だぞ。ちょっと待ってろ。人のいない所に行ってからかけ直す。」


 教官はそう言って一度電話を切った。

 電話を耳から離すとマルスが、


 「それで? どうだった?」

 「人のいない所に行ってからかけ直すって。それと、普通は分からない事は最初に聞けと。減点だぞ、だって。」

 「まぁそうだろうなぁ。次からは気を付けるか。」

 「そうだな。」

 「俺は何か飲み物買ってくるよ。果実水でいいか?」

 「あぁ。ありがとう。」


 マルスは立ち上がり飲み物を買いに人混みに紛れて行った。

 それにしても電話はまだかな?

 電話を見ながらボーッと待っていると、教官から電話がきた。

 油断していたので、少し驚いたが電話を出て、


 「もしもしアレクです。」

 「遅くなった。今から説明するが大丈夫か?」

 「はい大丈夫です。」

 「えー今回お前達の調べる対象の薬は、貴族や市民の間に出回っているとは言ったな?」

 「はい。」

 「薬の名前は女神の抱擁アフロディーテという名で、使用すると女神に会え、抱き締められるような幸福感に包まれる事からこの名が命名された。効果は気分の高揚、幻覚、感覚の鋭敏などが主な症状だな。また、常習性が強く一度使用すると抜け出すのにかなりの期間が必要となる。薬の禁断症状としては、情緒不安定や身体の震え、暴力的になり周囲の物を急に破壊しだすと言った所か。」

 「かなりヤバい薬ですね。」

 「そりゃあな。これ以上被害を増やさないように早期解決しなければならない案件だからな。」

 「わかりました。情報ありがとうございます。」

 「おう。くれぐれも無茶はするなよ。」


 そう言って教官は電話を切った。

 これは思ってたよりもヤバそうな任務だな。

 特徴は聞いた。後はそれに該当していそうな人物を手当り次第探すか。

 俺が作戦を考えていると、両手に飲み物を持ったマルスがこちらにやって来た。


 「どうだった? 連絡はついたか?」

 「あぁ。話を纏めると……。」


 俺は先程の先生とのやり取りや、自分が考えていた調査方法をマルスに伝えた。

 話を聞いたマルスはうんうんと頷きながら、


 「どの道、地道に調べるしかないだろ。それなら、お前の言っている方法で調べてみるか。まずはどこを調べる?」

 「そこが問題なんだよな。マルスは思い浮かんだ所とかあるか?」


 俺は首都出身じゃないから、正直地理は疎い方だ。

 なのでここは首都出身のマルスに候補を出してもらう方が手っ取り早いだろう。

 顎に手を当てながら考えているマルスは俺の方を見ると、


 「まずは酒場とかかな。情報が集まると言えば酒場ってイメージだし。後、考えられるとしたら首都外壁近くのスラム街とかはどうだ?」

 「スラム街か。話は聞いた事あったけど本当にあるんだな。」

 「まぁ普通、俺達には縁のない場所だからな。」


 さてどうするか。

 マルスから出された候補地を、どちらに行くべきか考えてみる。

 スラム街が怪しいような気もするけど、証拠もないし何となくの漠然としたイメージだけの判断だからな。

 確証があれば行くんだが。

 悩んだ末に出した結論は、


 「まずは酒場に行って情報を集めよう。今の俺達には情報がなさすぎる。こんな状態じゃ調査なんか進まないよ。」

 「了解。じゃあまずは酒場に行って情報収集といくか!」


 俺達は、酒場に向けて歩き出した。

 ん? 待てよ?

 少し歩いた所で俺は立ち止まりマルスに問いかけた。


 「なぁ、酒場って言ってもどこの酒場に行くんだ?」

 「……。とりあえず可愛い女の子が店員の店だな。」

 「それ任務と全然関係ないだろ!」

 「まぁまぁそう怒るなよ。どこに行っても同じなら別にいいだろ?」

 「そうだけど。けど納得はいかん。」

 「わかったわかった。じゃあ行くぞ。」


 何やかんやと言いくるめられながら俺とマルスは目的地へ向かって歩き出した。



 「着いたぞ。ここだ。」


 マルスに案内されて辿り着いた場所は、如何にも酒場!って感じの雰囲気を出している店だった。

 女の子がどうとか言いながらも、真剣に調べるつもりだったんだなマルス。

 少しだけ見直した俺は、初めての酒場に少し緊張していた。

 俺が密かに緊張している事は全く知らないマルスは扉を開け中に入っていった。


 「いらっしゃいませー!」


 店内に入ると、中は思っていた以上に広く清潔感があった。

 まだ早い時間だからか、客もそこまでおらず全体の三分の一くらいしか席は埋まっていなかった。


 「あっ! マルスくんいらっしゃい。今日は二名ですか?」

 「シンシアちゃんいらっしゃいました〜。今日はシンシアちゃんの綺麗さを広めたくて友達を連れて来たんですよ。」


 デレデレとした表情のマルスは、シンシアと呼ばれた店員さんと話をしている。

 俺が少しでも見直したのが悪かったよ。

 少し不機嫌そうな顔をしていると、こちらを覗いてきたシンシアさんが、


 「あの、どうかされましたか?」

 「いや、なんでもないですよ。」

 「そうですか。それじゃあこちらの席に座ってくださいね!」


 シンシアさんに案内された席は、丸テーブルに椅子が二脚の二人席で丁度店の中央辺りの席だった。

 席につくと、マルスがシンシアさんに、


 「シンシアちゃん。とりあえずエール二つで。」

 「はーい。学生さんなんだから飲み過ぎはダメですよ。」

 「シンシアちゃんに迷惑はかけませんよ〜。」

 「マルスくんはいつも褒め上手ですね!」

 「本音を言ってるだけですよ俺は。」


 マルスがそう言うと、笑顔を浮かべながらシンシアさんは厨房へと向かっていった。

 俺はマルスを睨み、


 「おい。どうゆう事だ?」

 「まぁそう怒るなよ。シンシアちゃんが可愛くて顔を見たかったのもあるけど、店員さんから話を聞くのも大事だろ? そう考えたら喋りやすい人の所に来た方が早いぜ。」

 「そりゃそうだけど。ってかお前は普段からここで酒を飲んでるのか?」

 「たまにしか飲んでねえよ。そこまで俺の稼ぎが良いわけないだろ。」


 この国では、飲酒についての制限や罰則はない為、俺達がお酒を飲んでも問題はない。

 だけど国からは、お酒は成人してから飲むように推奨はされているはずだ。

 因みに18歳以上で成人と見なされるので、俺達はまだ成人はしていない事になっている。

 もちろん俺はお酒なんて飲んだ事はない。

 意外な所でマルスについて新しく知ることが出来た。

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トゥルーヒーローズストーリー 〜英雄達の物語〜 夏霧 尚弥 @Nao-jack

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