第3章 任務編

第29話

 大演習が終わってから数日後……。


 「ふっ! しっ!」


 俺は今日も朝から鍛錬をしていた。

 日課の素振りとトレーニングを終えた俺は、タオルで汗を拭い照りつける太陽を見上げた。


 「暑くなってきよなぁ。」

 「それだけ夏が近づいてきたって事だな。」


 俺の後ろから声をかけてきたのは、トンファーを持ったマルスだった。

 大演習の後、マルスから一緒に鍛錬がしたいと言われ師匠に聞いてみた所、同じ鍛錬をするくらいなら見てやる。といった流れになり一緒に鍛錬をする事になった。

 最初は少し戸惑ったが、同級生と共に鍛錬をする事で対抗心が芽生えて内容が濃くなってる気がする。


 「そろそろ時間だぜアレク。」

 「もうそんな時間か。軽く朝食を食べて学園に行くか。」


 俺達は鍛錬を切り上げ部屋に戻る。

 シャワーを浴びてさっぱりすると、制服に着替え朝食を食堂で済ませた。

 そして、マルスと学園に登校する。

 これが最近の朝の流れだ。

 マルスと世間話をしながら歩いていると、俺の携帯が鳴ったので画面を見た。

 すると、学園からRINEが届いており内容を確認すると、


 『アレクさん。任務についてのお話があります。朝の授業開始までに教官室に来てください。』

 「おっ? 俺にも学園からRINEが入ってるわ。もしかして同じ任務かもな。」

 「どうだろうな。」

 「とりあえず教官室まで急ごうぜ。このままのペースじゃ授業に遅れるかもしれん。」


 俺達は、歩く速度を早め教官室へと向かった。



 「失礼しまーす。マルスとアレクです。」

 「おう来たか。入れ入れ。」


 どうやら俺達を呼んだのはロック教官だったようだな。

 ロック教官の元に向かうと、事務処理をしていた教官が俺達の方を向き、


 「面倒だから用件だけ話すぞ。お前達に任務の要請が入っている。普通、一年だけで行う任務は夏が過ぎてからなんだがこの前の大演習を見て判断したんだろうな。」

 「そうなんですね。ちなみにどんな任務ですか?」

 「最近、貴族や市民の間に違法な薬物が出回っているらしい。薬物の出処及び売買組織の調査だな。ほら、これが任務内容の書かれた紙だ。」

 「え? 調査だけですか?」


 紙を渡された俺はマルスと同じ事を思った。

 教官は頭を掻きながら、


 「一年のお前達だけで組織の討伐までは無理だ。複数の部隊で調査をしてもらい、討伐するのは上級生の部隊になる。」


 そういう事か。

 調査だけなのは少し納得がいかないが、自分達にはまだ実績がない以上、仕方ない事だと無理矢理自分の中で納得する。


 「それと、後でホームルームでも言うが授業の課題を出すからちゃんとやれよ? 任務はソルジャーとしての仕事だが、だからって学生としての勉強を疎かにしたらダメだからな。」


 俺とマルスのテンションがかなり下がる発言をされ落ち込んでいると、


 「ほら。そろそろホームルームの時間だから教室に行くぞ。」


 そう言い、教官は椅子から立ち上がり教官室の外へ向かって歩いていく。

 俺達は頭を垂れながらその後について行った。


 「課題ってどれだけ出るんだよ。」

 「そんなの知るか。少ない事を願うだけだよ。」


 教室に向かう道中、俺とマルスはコソコソと課題についての話をする。

 こんな状態で任務に集中できるのだろうか。

 そんな事を話している内に、いつの間にか教室に着いており、俺達と教官は揃って教室に入った。

 始めは始業ギリギリに来た俺達の方を見ていたが、教官と同時に入った事で呼び出しをされていたのだろうと思われ何も言われなかった。

 教壇に立った教官は、ポケットから何やらメモ用紙を取り出し、


 「えー今からホームルーム始めるぞー。まずは、今日から任務に付くやつが何人かいてるが、そいつらにはRINEで授業内容と課題を送るから教科書を見て勉強するように。任務に集中しすぎてテストの結果はダメでした〜は通用しないからな。めんどくさいからしっかり勉強しろよ?」


 先程、教官室で言われた内容と同じ事を教官は全員に説明していた。

 とゆうか、テストで赤点取ったらどうなるんだっけかな?

 俺の思った疑問は、次の教官の説明で理解出来た。


 「テストで赤点取ったやつは夏の長期休暇の時に補習だからな。休みがなくなると思っておけよ。俺の休みも減るから赤点は取るな。以上。」


 休みがなくなるのは辛いなぁ。

 大変だけど勉強も頑張るか。

 教官からの説明が終わり、授業が始まる前に任務内容をもう一度確認する為に書類を見る。

 なになに、『違法薬物の出処が分からない以上広範囲での調査になる。調査範囲をできる限り絞る為に些細な情報でも報告するように。』かぁ。

 隣で燃え尽きているマルスの肩を叩いて紙を渡し、


 「マルスも目を通しておけよ。」

 「俺はもう真っ白だぜアレク〜。」

 「真っ白になっても良いけど、任務はしっかりしろよな。」


 赤点は取りたくないから俺は勉強も頑張るけどな。

 いつの間にか教壇には、ロック教官からソーニャ教官に変わっており、座学の授業が始まる所だった。今日も勉強頑張ろうかね。

 真っ白な同級生が隣りにいてるが、気にせず教科書とノートを開き集中した。



 「やっと終わったぁ~! 早く行くぞアレク!」


 今日の授業が終わり復活したマルスがやる気を出して俺に声をかける。


 「あぁ行くか。それより気になってたんだけど、今日一日平和だと思ってたらセレスティアとフレイがいないんだよな。二人揃ってサボりか?」


 帰宅途中、俺は疑問に思っていた事をマルスに聞いてみた。


 「さぁ? もしかしたらあの二人も任務じゃねえのか?」

 「なるほど。それもそうか。」


 もしかしたら同じ任務についているかもな。

 帰ったら一度聞いてみるか。

 そう思い俺は、寮へと急いで帰った。

 寮の部屋に戻った俺は、ポケットから携帯を取り出しセレスティアに電話をした。

 数回コール音が鳴った後、


 「もしもし。」

 「おぉセレスティアか。今何してる?」

 「今はちょっと忙しいんだけど。何か用?」

 「今から任務なんだけど、もし一緒の任務なら合流しようぜ。」

 「はぁ? あなたは馬鹿なの? 私は任務なんて一言も言ってないでしょ!」

 「え? 違うのか?」


 俺が予想しているのとは違う流れになってきたぞ?

 電話越しにため息が聞こえ、


 「普通、任務についている人は自分から言ったらダメって分からないの? それくらい少し考えたら分かるでしょ馬鹿!」

 「そ、そんなきつく言わなくても。」


 任務前から俺のメンタルは崩壊しそうだよこの野郎。

 電話の向こう側が少し騒がしくなり集中して聞くと、


 「くだらん電話を姫にするなクズ。さっさと死ね。」


 ブツン。

 何やら聞き覚えのある声で、暴言を吐かれた後に電話は切られた。

 俺は膝から崩れ落ち、両手を地面につけた。

 結局、あの二人が何しているのかも分からず、説教と暴言を聞かされるだけの電話となった。


 「おわっ! どうしたアレク!」


 迎えに来たマルスが、崩れ落ちている俺を見て駆け寄ってきた。


 「よぉマルス。俺はもうダメかもしれない。」

 「誰がアレクをこんな風にしたんだ! 俺がとっちめてやる!」

 「頼む。毒舌委員長をなんとかしてくれ。」

 「あっ。それは無理だわ。すまん。」


 諦めるのが早すぎるだろ!

 気持ちを切り替えて立ち上がると、ピコンとRINEの通知がきた。

 画面を開いて確認すると、

 『今言ったのは私じゃなあから!』

 と、セレスティアからのRINEだった。

 すぐに連絡がきたって事は、そこそこ焦ってたのかな?

 文字の打ち間違いをしているくらいだし。

 少し笑って元気が出たと思ったら、もう一回通知がきたので開くと、

 『RINEがきたからって喜ぶなよ蛆虫が。』

 と、毒舌委員長ことフレイから連絡がきた。

 携帯を落とし再び崩れ落ちた俺を見てマルスが、


 「アレクーーー!!!」


 俺の両肩を掴んで叫んだ。

 それから俺が復活して調査の準備が完了したのは、一時間程経過した後だった。

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