第25話

 倒れ込んだグレートマンティスの前で俺は雄叫びを上げ、その場に座り込んだ。

 ふぅ。疲れた〜。


 「やりましたわねアレクくん!」


 先輩が俺の背中に抱きついてくる。


 「か、会長! そんな気安く男に抱きついたらダメですよ!」


 顔を赤くしたセレスティアが先輩に注意しながら近付いてくる。

 注意した後、俺の方を見て、


 「あんたもあんたよ。美人な会長に抱きつかれて鼻の下を伸ばすな!」

 「そんな余裕あるかよ。」


 さすがに俺も疲れたんだよ。

 フレイに剥がされた先輩がぷんぷんしながら、


 「未来の旦那様に抱きついて何が悪いんですの? 離して!」

 「いや、まだ会うのは2回目ですよ? さすがにそれはないですよ。」

 「こう否定されてますので会長、離れましょうね。」


 抵抗虚しく先輩はフレイに連れて行かれる。

 先輩は身長低い方だし、フレイは高いから妹を持ち上げる姉みたいだな。

 俺がため息をつきながらそんな事を考えていると、


 「あなたの剣はもう使い物にならないわね。」


 セレスティアに指摘され自分の剣を見ると、罅が入っておりもう使えないとすぐにわかった。


 「剣を熱した状態であんな使い方したら壊れるのは目に見えていたわ。あんた、替えの剣はあるの?」

 「ないから新しいの探しに行かないとなぁ。」

 「そう。買いに行かないといけないのね。」

 「そうだな。まっ、こいつに勝てたからよしとするか!」


 笑いながら俺はグレートマンティスの方を見ると、ゆっくりだが確実に起き上がって来ているのが見えた。

 その近くにはフレイと先輩がいるが、2人は戦いが終わったと思い気を緩めているのか全く気付いていない。

 俺は咄嗟に立ち上がって走り出し、


 「2人とも危ない!」

 「ギシャァァァ!」


 グレートマンティスが鎌を振り上げ、2人に襲いかかる。

 俺は2人に体当たりをして吹き飛ばし、代わりにグレートマンティスの攻撃をモロにくらってしまう。


 「かはっ。」


 胸元から斜めに切り裂かれた俺は、膝から崩れ落ち倒れる。

 なんか、似たような事が前にもあったような……。

 朧気な意識で先輩が叫び、フレイがグレートマンティスに向かって攻撃を仕掛けていくのが見えた。


 「アレクくんしっかりしてくださいまし! 中級回復魔法ケアルラ!」


 暖かな光に包まれとても心地よい。


 「アレクくんごめんなさい。後でちゃんと謝りますから今は生き延びる事だけを考えて!」


 意識を失いそうな時、先輩の泣き顔が見えた。

 それを見て俺は、昔に泣かせたソフィアの事を思い出す。

 また同じ事を繰り返すのか?

 俺は何の為に強くなろうとしたんだ?

 俺は、俺の知っている人達を守る為に強くなろうとしたんだろうが!

 また泣かせてどうすんだよ!

 意識をはっきりさせ俺は立ち上がろうとする。

 それを見た先輩が、


 「アレクくんダメですわよ! 回復しましたが、失った血は戻らないのです。今は休んでください。」

 「そうよ! こっちに下がってなさい!」


 セレスティアからも言われるが、それじゃこの前と同じだ。

 よく見ると、フレイも善戦しているがやはり攻撃力が足りず倒しきれていない。

 少し青い表情の先輩やセレスティアの様子を見るに、魔力もそこまで残っていないのだろう。

 今、俺が倒れている場合じゃない。

 なんとか立ち上がり、背中に差している剣を抜くがまだ焦点が合っていない。

 かなり血がなくなったから仕方ないか。

 剣を握る握力はなんとか残っているが、これじゃまともに振れない。

 ジリ貧かと思ったその時、


 「やっと広い場所に出れたぜ!」


 後方から懐かしく感じる声が聞こえた。

 俺達が後ろを振り返るとそこには、トンファーを持ったマルスが立っていた。


 「よぉアレク! ってどうしたんだその傷!」

 「ははっ。いいタイミングで来てくれたよマルス。ちょっと手伝ってくれ。」

 「待て。どういう状況だこれ?」


 少し考えたマルスは、グレートマンティスを睨み、


 「あいつをぶっ飛ばせばいいんだな?」

 「そう言う事だ。あいつの防御を破るのに少し時間が欲しいんだよ。頼めねえか?」


 マルスはトンファーを振り回しながら、


 「まかせろ相棒。速度強化ヘイスト。」


 いつ相棒になったんだよ。

 ツッコミを入れる元気のない俺は、心の中で突っ込んだ。


 「よくも好き放題暴れやがったな虫野郎! ぶっ飛ばしてやる!」


 強化魔法を付与したマルスは、あっという間にグレートマンティスの懐に潜り込み、


 「おらぁ!」


 顎に向かってトンファーを突き上げた。


 「まだまだぁ!」


 更にマルスは、トンファーや体術で次々とグレートマンティスに攻撃を仕掛ける。

 鬱陶しいと思ったのか、グレートマンティスはマルスに集中し、攻撃を仕掛ける。

 だがマルスは攻撃を避けながら追撃をしていく。そして、


 「おらよっと!」


 隙が出来た瞬間に、グレートマンティスの横っ面を殴り飛ばし吹き飛ばす。

 あいつ、この前戦った時よりも速くなってないか?授業の時より明らかに速い。

 なんでかはわからないが、今のうちに準備を進めよう。

 俺は先輩を見て、


 「先輩。俺の手と剣をキツく縛ってください。」

 「そんな状態で戦わせになど行かせませんわよ。」

 「先輩!」


 急に叫んだ俺に、先輩は驚いていた。


 「今この場で、とどめを刺せる可能性があるのは俺だけです。先輩もそこまで魔力が残っていないでしょう? セレスティアも残ってなさそうだし、マルスとフレイじゃ火力不足だ。俺がやるしかないんです。」

 「ネクロスくんを待てば。」

 「ネクロス先輩は魔人と戦っているんですよ?」


 そう言い先輩とネクロス先輩を見るが、ネクロス先輩は刀に魔法を付与した状態で敵と向かい合っていた。


 「あれは、フレア剣。そこまでの相手なのですわね。」

 「フレア剣ってのが何かはわかりませんが、すぐに決着がつきそうですか? それなら待ちます。」

 「……いえ。無理でしょうね。」


 力になれないのが悔しいのか、先輩は唇を噛み俯いている。

 口から血を出すくらい噛み締めているのだから、どれほど悔しいのか俺には想像できないレベルだ。

 先輩は顔を上げ、


 「わかりましたわ。でも、回復魔法をもう一度かけさせてくださる?」

 「回復魔法よりも使ってもらいたい魔法があります。」

 「なんですの?」

 「先輩の風属性上級魔法エアロガを剣に付与してもらえないですか?」

 「次は風属性で攻撃するのですか? それでは先程のようなダメージはないと思いますが。」


 俺はセレスティアの方を見て、


 「フレアドラゴンの炎と先輩の魔法を同時に付与します。それなら恐らくあいつを倒せる。」


 先輩は再び驚いた顔をして、その後に怒りだした。


 「ふざけないでくださいアレクくん。そんなのあなたの剣が持ちませんわ。」

 「それでも! やるしかないんです。」


 俺の真剣な目を見て先輩はため息をつき、


 「その顔は反則ですわよ。覚悟を決めた男の顔を今見せないでください。この場で襲いたくなりますわ。」


 俺は苦笑しながら、


 「それはやめてください。」


 そう言い、剣を構える。

 先輩は自分がしていたリボンを外し俺の手と剣を巻き付ける。

 縛り終わった後、両手で俺の手を握り、


 「風属性上級魔法エアロガ。」


 先輩の風魔法が付与された。

 その後、セレスティアを見て、


 「頼むセレスティア。」

 「あなたは本当に馬鹿ね。後で説教だから。」


 少し怒った表情のセレスティアがフレアドラゴンを召喚し、俺の剣に炎を浴びせる。


 「終わったわよ。さっさと倒してきなさい!」

 「おう! ありがとな!」


 2人の視線を浴びながら俺は、グレートマンティスの元へ歩いていく。

 すると、マルスとフレイが自然と俺の両隣に立ち、


 「準備は出来たのかアレク?」

 「さっさと終わらせるぞ。」

 「あぁ、待たせた。フレイは魔法で援護してくれ。マルスは今みたいに注意を集めておいてくれるか? 隙が出来た時にこれをぶち込んでやる。」


 俺達は、2つの魔法が付与された剣を見て、


 「凄い魔力が詰まってるな。その剣じゃキャパオーバーだろ。」

 「だろうな。だから2人とも急ぎめでよろしく。」

 「全く無茶言いやがるな相棒は。」

 「貸しひとつだからな。」


 そう言い残し2人は、グレートマンティスに向かって行った。

 俺は剣を構え、いつでも飛び出せる準備をしておく。

 グレートマンティスを見ると、本能なのか明らかに俺の剣を警戒しており、マルスとフレイを見ていない。


 「油断してると怪我するぞ。おらぁ!」


 マルスが警戒していないグレートマンティスの傷口を殴る。

 多少の痛みがあったのか、グレートマンティスの注意がマルスに向く。

 先にマルスを片付る為に、鎌で攻撃を繰り出す。

 死ぬ間際の抵抗なのだろうか、更に攻撃スピードが上がりマルスも避けきれなくなり、少しずつ切り傷が増えていく。

 マルスが攻撃を必死で回避していると、


 「私を忘れてもらったら困るな。土属性初級魔法クエイク。」


 グレートマンティスの傷口に向け、フレイの唱えた土の棘が刺さる。

 傷口から体液が飛び出し、グレートマンティスは悲鳴をあげる。

 フレイに注意が向き、グレートマンティスが襲いかかろうとするが、


 「そっちには行かせねえよ。」


 マルスがグレートマンティスの足をトンファーで殴る。

 足は意外と脆いのか、攻撃されると倒れていった。

 鎌を使い器用に立ち上がろうとするが、


 「土属性初級魔法クエイク。」

 「立たせるかよ!」


 好機と感じた2人が同時にグレートマンティスに攻撃していく。

 フレイは残っている魔力を使い魔法を何度も使用し、マルスはグレートマンティスの顔面を連打する。


 「キシャァァァ!」


 グレートマンティスが鳴きながら暴れているのを見ながら俺は駆け出した。


 「いくぞ! これで最後だぁ!」


 俺の声を聞いた2人は、入れ替わるように俺の後ろに回り、グレートマンティスと俺の前には誰もいなくなる。

 立ち上がったグレートマンティスは俺を仕留めるべく突撃してくる。

 両者の攻撃が交差する前、突風が俺の背中を押した。

 その風は、俺の走る速度を上げグレートマンティスの身体を少しだけ仰け反らせた。

 この風はおそらくセレスティアのシルフだろう。

 心の中で感謝しつつ、俺はグレートマンティスに向かって剣を振り下ろした。

 剣がグレートマンティスに触れると、炎の竜巻が発生しグレートマンティスに襲いかかる。

 炎の竜巻はそのままグレートマンティスを焼き尽くし鳴き声をあげる事無く消滅した。


 「はぁ、はぁ、はぁ。」


 俺はグレートマンティスのいた所を見て、姿が消えているのを確認しそして、


 「勝ったぞー!」


 折れた剣をその場に投げ捨て両手を上げ勝利を喜んだ。

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