第26話
〜ネクロスside〜
「飛斬・爆」
まずは牽制代わりにシルヴァに向かって飛斬を放つ。
危険な気配を感じたのか、シルヴァはガードせずに避け俺に向かって走って来た。
シルヴァの後方で飛斬が爆発したのを感じつつ、連撃を回避する。
獣神化とやらを使っただけあってかなりのスピードだ。
だが、まだ目で追えない程でもない。
ギリギリで回避しつつ俺はタイミングを測る。
そして、タイミングが合った攻撃に合わせてカウンターで刀を振る。
咄嗟の癖なのだろう、シルヴァは攻撃をキャンセルして両腕でガードした。
刀が触れた瞬間、爆発しシルヴァを数歩後ろに吹き飛ばす。
視界が煙に包まれている間に、俺は後ろに回り込む。
「くそっ! 厄介な剣だな。」
シルヴァの呟く声が聞こえたので、
「褒め言葉として受け取っておこう。」
「ちっ!」
刀を振るい追撃をかけていく。
回避が間に合わず、再びシルヴァは爆発で吹き飛んでいく。
追撃を続けようと突撃体勢をとったが、違和感があったので少し様子を見る。
「がぁっ!」
シルヴァが咆哮し、周囲の木々が吹き飛び煙が上がる。
あれは魔力を乗せた咆哮か?
煙の中から、所々火傷をしているシルヴァが俯きながら現れる。
どんな攻撃がきても対応出来るように待ち構えていると、顔を上げたシルヴァが身体を震わせながら、
「くそがぁ! 調子に乗るんじゃねえぞ!」
かなりご立腹のようだな。
獣人は、身体能力が優れているが種族柄、感情のコントロールを苦手としている場合が多い。
シルヴァも魔人となったが、そこらへんは変わっていないようだ。
もしかしたら魔人になった事で、更に感情の抑えが効かなくなっていそうだが。
シルヴァがその場で腕を交差し、勢いよく振り下ろした。
すると、飛斬のような斬撃が俺に向かって飛んでくる。
「飛斬・爆。」
シルヴァと俺の斬撃が衝突し爆発する。
爆発によって発生した煙の中からシルヴァが突撃してきた。
「があぁ!」
吠えながら振り下ろしてきた爪による攻撃を刀で防ぐ。
もちろん刀に付与しているフレア剣の効果により、爪が触れた途端シルヴァに向かって爆発が発生する。
馬鹿なやつだ。フレア剣を使用中は、俺の刀に触れる事は出来ないのが今までの戦闘でわからんのか?
頭に血が上っている状態では、まともに判断が出来ないのか、何度も何度も同じ事を繰り返す。
最初は何かの作戦かと思い用心していたが、段々と気持ちが冷めてくる。
もういい。終わらせよう。
攻撃の嵐が止み、息を乱れさせたシルヴァに向かい刀を振るう。
今の疲れている状態では避ける事も出来ずガードで防いでいる。
吹き飛んだシルヴァの後ろに回り込み、背後から刀を振り爆発させ別の方向に吹き飛ばす。
吹き飛んでは接近して攻撃。これを何度か繰り返しシルヴァの体力を削っていく。
何やら呻き声のようなものが聞こえるが、今の戦闘に楽しみがなくなったとわかった途端、早く終わらせようと決めたので無視する。
そして、数度繰り返した後俺は、シルヴァを空へと打ち上げ魔法の準備をする。
シルヴァはこちらを見て両手を前に出し、
「ぶ、ぶっ殺す。くらえ、
独特な魔法には興味があったが、別の機会でもいいだろうと思い、俺は左手を上にあげ、
「終わりだ。
全てを破壊する光線をシルヴァに向かって放つ。
シルヴァの魔法ごと纏めて攻撃に当てると、光の中で何度も爆発している音が聞こえる。
光線の攻撃範囲に入ると、消えるまではひたすら爆発による連続攻撃がその身を襲う特級魔法の名に相応しい威力の魔法だ。
連続爆発の最初は声を上げていたシルヴァも、次第に声が聞こえなくなり爆発が終わる頃には姿さえもなくなってしまっていた。
普通に殺しても先輩に文句を言われそうだが、跡形もなく消してしまったとあらば小言が多くなりそうだな。
そんな事を思いながら俺は刀を鞘に戻し、他の連中が集まっている場所へと歩いていった。
☆
〜アレクside〜
「やったなアレク!」
「お前にしては良くやったよ。」
俺の勝利の雄叫びを聞いたマルスとフレイが2人らしい言葉で労ってくる。
労いの言葉を聞いた俺は安心し、その場に座り込んだ。
マルスが慌てて俺の肩に手を置き、
「大丈夫か? ダメージが深すぎるのか?」
「いや、ちょっと疲れて立っているのもしんどいんだよ。」
「今日は疲れたよなぁ。」
「あぁ。今日はさすがにもう疲れたよ。」
いつの間にか隣に座り込んだマルスと今日の大演習を振り返る。
「って、まだ大演習終わってないじゃん!」
今更な話かもしれないけれど、大事な事を俺は思い出した。
「ふふっ。大演習はもう終わりですわよ。こんな状態で続行を決める程、教師の方達は馬鹿ではありませんわ。」
笑いながらエリス先輩が俺の背中に抱きつきそう言った。
なんで抱きつくんだよ。
普段なら嬉しいとは思うが、疲れている今の状態では勘弁して欲しい。
それに、先輩が抱きついてくると必ず、
「会長! 何してるんですか!」
ほらな。セレスティアが怒りだすんだよ。
今、セレスティアから小言を言われるのは正直辛い。
まともに話を聞ける体力はないし、聞かなかったら聞かなかったで文句を言われそうだ。
セレスティアの視線から逃れるように、俺はネクロス先輩の戦いを見るとそこには、爆発音が何度も響きながら激しい戦いが繰り広げられている。
そして、敵の男が空へと打ち上げられネクロス先輩の放った魔法が敵に当たると一際大きい爆発が起こった。
エリス先輩が怒りながら、
「あれ程敵は殺さずに捕縛するように言っておきましたのに。特級魔法なんか使ったらダメじゃないネクロスくん。」
特級魔法……。
怒っているエリス先輩を他所に俺は特級魔法という単語が気になり尋ねた。
「先輩。特級魔法ってなんですか? 授業では習っていないんですけど。」
「特級魔法というのは、上級魔法の上に位置する最上級の魔法の事ですわ。クリスタルがほとんど見つからない事や、使用する為の魔力消費が激しいので授業で習うのは3年生の時ですわよ。」
ネクロス先輩は一体そんなクリスタルをどこで手に入れたのだろう。
俺は疑問を抱きつつも、ふと魔物から手に入れたクリスタルを取り出し、
「あと、クリスタルを手に入れたんですけど。」
「まぁ! 運が良いですわねアレクくん。そのクリスタルはあなたのものですわよ。後で鑑定してもらいなさい。」
「クリスタルって魔物から手に入るんですか?」
「クリスタルは、生命エネルギーと思っておいたらよろしいですわ。だから魔物だけではなく、人が死んだ時もクリスタルが出現する事があります。あまり教えてはいけない事なので内緒ですわよ。」
そうだったのか。
人からもクリスタルが現れるって、それは広めたらダメだ。そんな事広めたら人殺しがあちこちで行われてしまう。
今聞いた事を忘れないようにし、誰にも言わないようにしよう。
「表立って言わないだけで、気付いている人は結構いますわ。」
いてるのかよ。秘密にしとかないといけない事じゃないのか?
その時、エリス先輩の携帯が鳴った。
誰かから連絡がきたようだ。
「はい。はい。分かりましたわ。」
携帯をポケットに直し、俺達の方を見て、
「今教員の方がこちらに向かって来ているそうですわ。もう魔物も片付けたそうでこれで安心だそうです。」
「やっと終わりかー! 疲れたー!」
「何もしてない奴が疲れている訳ないだろうが。」
「おまっ! 俺だってここに来るまでに魔物倒して来たんだっての!」
マルスとフレイの言い合いを見ていると、セレスティアが俺の隣に立ち、
「まぁ今日のあなたは頑張った方じゃないかしら。お疲れ様。」
「お疲れ。俺はいつも頑張ってるって。」
「そ、そうね。」
何やらセレスティアが自分の指先を弄りながら俺に喋りかけてくる。
俯いていると思ったら急に顔を上げ、
「ねぇ! あ、明日って……。」
「諸君、ご苦労だった。外の魔物も駆逐し今回の件は完了した。今、治療担当の保健教諭をそちらに向かわせた。負傷者は保険教諭に治療してもらうように。」
セレスティアが何かを喋っている時に学園長のアナウンスが響き、全く聞き取れなかった。
「ごめん。もう一回言ってくれないか?」
「だから! あ、明日って何か予定……。」
「あっ! アレクくんじゃない! 久しぶり!」
また誰かの声にかき消されセレスティアの言っている事が聞き取れなかった。
何やら顔が赤くなって震えているが、ひとまず俺を呼ぶ方を振り向く。
するとそこにいたのは、師匠と初めて会った時に組んでいたミレイさんだった。
ミレイさんは手を振りながら、
「本当に首都まで来たんだね!」
「ミレイさんお久しぶりです。なんでここに」
「私? 私は、この学園の保険教諭だからね。」
えぇー! そ、そうだったのか。
驚いている俺を笑いながらミレイさんは、全員に回復魔法をかけていき、
「これでよし! じゃあ他の先生が来るまで待機しててね。」
そう言い残し去っていった。
ミレイさんとも会えて嬉しいな。
しかし、何か忘れているような……。
あっ! 俺は思い出しセレスティアの方を見た。
「悪い! それでなんだ?」
「明日朝の10時に正門前集合!」
何やら怒った様子でセレスティアはそっぽを向いた。
なんで怒られないといけないんだよ。
不満気な表情をしていると、後ろから肩を叩かれ、
「女の子の話をちゃんと聞かないお前が悪いよ。」
マルスにそう言われた。
いや、聞こうとしたんだって。
俺はそう言おうとしたが、先生がやって来て皆歩いて行ったから誰にも伝える事が出来なかった。
本当なんだって……。なぁ、誰か俺の話を聞いてくれ……。
きっとセレスティアもこんな感じだったんだろうな。
次からはしっかり話を聞くようにしよう。
俺は心の中で誓い、皆が集まっている所へ歩いて行った。
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