第23話
グレートマンティスに向かって駆け出した俺達は、事前に打ち合わせをした訳ではないのに自然と左右に別れた。
左側に走って行った俺は、グレートマンティスに向かって剣を向け、
「飛斬!」
まずは挨拶代わりとばかりの飛斬を放った。
当然の如く防がれるが、ダメージを与える事が目的ではなく、こちらに注目を集めるのが目的なのでこれでいい。
グレートマンティスは、俺に接近し両手の鎌を振りかぶった。
昆虫型の魔物だからある程度スピードもあるだろうと予想していたおかげか、鎌による振り下ろしの攻撃に対応でき、回避する事が出来た。
予想していた以上のスピードだったから危なかった。
もちろん振り下ろしだけで攻撃が止まる訳もなく、鎌を振り回してくる。
スピードは早いが直線的な動きなので、なんとか先読みをして回避をしていく。
グレートマンティスが完全に俺に集中したその時、
「後ろががら空きだ虫め。三連突き!」
フレイがグレートマンティスの後ろから連続の突きを放つ。
「キシャアァァァ!」
少し浅いが、見事に3連続で槍が刺さり苦しそうに声を上げる。
フレイの方を見ようとした時、
「こちらにも集中してくださいまし。
エリス先輩の銃弾がグレートマンティスの足元に当たる。
外したのかと心配したが、よく見たら足元が凍っているので狙っていたのかと察した。
「シルフ! 全員に風の加護をお願い!」
セレスティアがシルフに命令し、俺達全員に風の加護とやらをしてもらう。
シルフの身体が光り、その光りが俺達に当たると足元から風が吹き出した。
風の加護のおかげか、自分の身体が軽く感じられいつもより早く動けそうな気がする。
俺は姿勢を低くし、グレートマンティスに向かって駆け出す。
俺が接近している事を気付いたグレートマンティスは、鎌を振り飛斬のような斬撃を飛ばしてきた。
予想外の攻撃で回避が間に合わない!
剣を前に出しなんとか防ごうとすると、
「油断するな馬鹿が!
フレイが俺の前に土で出来た壁を作り出す。
斬撃は土の壁に当たり、俺に届くことはなかった。
「フレイ助かった!」
フレイに感謝の言葉を伝えながら、更に接近しとうとうグレートマンティスの懐に潜り込んだ。
「その両手の鎌が邪魔なんだよ! くらえ!」
俺は鎌のつけ根に向け剣を下から振り上げた。
つけ根は先端部分と違って柔らかく、俺はグレートマンティスの右側の鎌を切断した。
さすがに痛みがあったのだろう。グレートマンティスは緑色の体液を撒き散らしながら倒れ、その場で転がっている。
「アレクくん下がってくださいまし!」
エリス先輩の声が聞こえてすぐに後ろに下がると、
「これで最後ですわ!
先輩が魔法を唱えると、グレートマンティスの身体は凍りつき、氷山が出来上がった。
凄い魔法だな。俺も使ってみたい。
戦闘が終了し安心したのか、俺はそんな事を考えていた。
エリス先輩は一息つき、
「ふぅ。さすがに上級魔法を連発するのは少し辛いですわね。でも、問題なく倒せて良かったですわ。」
うんうんとエリス先輩は満足そうに頷いている。
特に誰も怪我をせずにBランクの魔物を倒せたのは良かった。
俺達4人は1ヶ所に集まり、少し休憩する事にした。
「後はネクロスくんが主犯の人物を倒したら全て解決ですわ。援護に向かって確実に倒さないと。」
エリス先輩が立ち上がり、ネクロス先輩が戦闘している所へ視線を向ける。
俺達もつられて見るとそこでは、目で追えないレベルの戦いが行われていた。
かろうじて金属同士がぶつかる音が聞こえるのみである。
☆
~ネクロスside~
「学生のくせになかなかやるじゃないか!」
「貴様こそ俺の剣によく着いてきているな。」
エリスさんや1年達が魔物と対峙している間に、俺はフードの男と対峙していた。
俺の剣戟にここまでついてこれるのは大したものだな。
俺はまだ全力を出していないが。
それはフードの男も同じようで、まだまだ余裕がありそうな口調だ。
「グレートマンティスもやられているし、少しは本気でいこうか!」
そう言うと男は、フードを脱ぎ捨てた。
そこから現れたのは、鍛え上げられた肉体を持った男だった。
肉体もそうだが何よりも特徴的な点は、男の両手には人間にはない鋭い爪だ。
「貴様、獣人か。」
「そうだ! 俺は虎の獣人シルヴァ様だ。」
「どうりで魔力も使わずに俺の速度についてこられる訳だ。魔物を召喚したことで魔力がなくなったか? そんな状態で俺には勝てんぞ。」
シルヴァは笑いながら、
「残念だが、あれはうちの幹部が事前に用意してくれてたものだから魔力は一切使ってねえよ。獣人族は元々魔力が少ないからな。無駄遣いしねえよ。」
それなら安心だ。負けた時の言い訳にされたらたまらんからな。
俺は愛刀ムラマサを構え、戦闘態勢をとる。
シルヴァの左腕が黒く光りだし、
「お前相手になら魔法を使ってもいいだろう。簡単に死んでくれるなよ?」
「クリスタルを埋め込んでいる。魔人に身を落としたか。」
「くはは! そういう訳だ。ただの人間が獣人で更に魔人になった俺に勝てると思うなよ!」
シルヴァが左腕を前に出し、
「
魔法?を唱えると、シルヴァの両手両足に黒いモヤのようなものが漂いだした。
今のはなんだ? 俺が知っている強化魔法とは違うようだが。
初めて聞く魔法に興味が沸いたが、戦闘中なので集中する。
魔法については後でゆっくり聞けばいいだろう。
次にシルヴァは、右腕も前に出し黒い球体を作り出した。
また見たことのない魔法だが、あんなものが当たる訳がない。
ニヤニヤ笑っているシルヴァが、
「これはお前にぶつけるもんじゃねえよ!」
そう叫ぶと、凍っているグレートマンティスに向かって球体を投げた。
何か嫌な予感がしたので、球体を切りに行こうと走るが、
「おっと! 行かせねえよ!」
前を塞いできたシルヴァが、中断蹴りを放ってくる。
刀で切ろうとしたが、何故か足が切れずに弾いただけだった。
グレートマンティスの方を見ると、球体が当たる所だった。
エリスさんがいち早く気付き、銃で消そうと発砲しているが、銃弾は球体をすり抜けている。
そして、球体がグレートマンティスに当たると、吸い込まれていき、
「キシャァァァ!」
目覚めたグレートマンティスが、氷を割り動き出した。
エリスさんの氷を割る実力があるはずがないのに何か違和感があった。
シルヴァを睨み、
「今のはなんだ? 答えろ。」
「ただの
どうやら少しややこしい魔法のようだ。
それに、魔人が使用する魔法は俺達が使っている魔法と少し違うとは。
俺は一度深く息を吐き、
「ふぅ。どうやらお前からは色々と聞くことがありそうだな。サンダガ剣。」
「やれるもんならやってみな!
俺が切りかかる前に更に強化をし、シルヴァは態勢を整えた。
色々と強化をしたようだが関係ない。切るだけだ。
シルヴァに反撃に隙を与えないよう、様々な角度から連続で刀を振るう。
強化されたシルヴァは、次々と襲う俺の剣戟を避けていく。
「くははは! 見えてるぞ学生!」
避けながらも挑発してくるシルヴァに対して、更に剣速を上げ攻撃していく。
「ちっ! まだ速くなるのかめんどくせえ。おらぁ!」
シルヴァが俺の攻撃に左手を合わせ、刀を弾く。
刀を弾かれ俺が無防備になったと思ったのだろう、
「これで終わりだ。死ね!」
右足で回し蹴りを放ち攻撃してくる。
俺はすかさず空いている左手を前に出し、
「くらえ
「くそが!」
シルヴァは攻撃しようとしていた右足を中止し、身体の前でガード態勢に入る。
回避することができず、まともに魔法をくらったシルヴァは、吹き飛んでいく。
好機とみた俺は腕輪を光らせ、
「
自身に強化魔法を唱え、シルヴァに向かって駆けていく。
「なめるなガキが!」
身体から煙を出しているが、そこまでダメージを受けていなさそうなシルヴァも体勢を整え迎え撃つ。
獣人特有の爪を使った体術と俺の剣戟が激しくぶつかる。
互いにかすり傷が増えていくが、致命的なダメージは避け均衡が中々崩れない。
このままでは身体能力的に不利だと悟った俺は、一度ジャンプして後方に下がり、
「
上級魔法を2連続で放ち、大爆発を起こした。
両腕を顔の前でクロスさせたシルヴァが、
「そんな単調な攻撃効かねえよ!」
対したダメージもなく叫んだ。
俺は刀を両手で握り光らせた。
「今の魔法で倒れるとは思ってないさ。次の攻撃は準備が多少必要なんでな。」
俺はそう返し、刀の光を強くしていく。そして、
「
本気で相手を殺しにいく時にしか使用しない、魔法を剣に付与した。
俺の刀の輝きを見たシルヴァは、
「さすがにそれをまともにくらうとやべぇな。」
「当たり前だ。未だかつてこの魔法を防げたやつはいないぞ。せいぜい足掻け魔人。」
「そんな魔法見せられちゃあ俺もそれに応えないとな。行くぞ、獣神化!」
何やら聞いたことのない単語を叫んだシルヴァの身体が獣の姿、虎に近付き身体も全体的に一回り大きくなった。
口から蒸気のようなものを出しながら、
「獣神化は獣人専用の技だ。時間制限はあるが、獣神化中は己の中の獣性を呼び覚まし全ての基礎能力が上昇する。」
「わざわざ丁寧に説明してくれるんだな。」
「ここまで俺と戦えたお前に敬意を評してだ。さぁ最後の戦いと行こうか!」
俺とシルヴァの戦いは最終局面を迎える。
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