第18話

 ピピピッ。ピピピッ。

 生徒手帳のアラーム音が聞こえ俺は目を覚ました。


 「うぅ〜ん。朝か。」


 今日は待ちに待った大演習の日だ。

 今の俺がどこまで同級生や先輩に通用するか楽しみだな。


 師匠から今日は朝の鍛錬を軽くするように言われているので、いつもより多く眠れた。

 中庭に出て軽く素振りをする。


 1週間前から軽めの鍛錬をしていたので、身体の痛みは全くない。

 うん。身体が軽く感じるな。

 自分の身体の状態を把握していると、


 「よぉアレク。良い感じに仕上がってるじゃねえか。大演習の日も朝の鍛錬か?」

 「おはようマルス。鍛錬って程じゃないよ。軽く身体を動かしてるだけだ。」

 「それも良いけど、朝食食べに行こうぜ。」


 マルスに朝食を誘われ、俺は鍛錬を終わらせる。

 今日は軽く流しただけなので、汗とかはかいていないからそのまま食堂に直行だ。


 食堂に行くと、いつもとは違いなにやらピリピリとした空気を感じる。


 「なぁマルス。みんな緊張してるのか?」

 「当たり前だろ? この大演習の結果でこれからの任務内容や成績が変わるんだから。」


 それでこんな空気になっているのか。

 緊張して普段通りの動きが出来ない方が成績が悪くなりそうなもんだけどな。


 ま、他のやつを気にする前に自分の事だな。

 そう思った俺は、朝食を手早く食べ終えた。


 食堂を出た後、一度用意を部屋に取りに帰り、玄関でマルスと合流した。

 マルスは傍から見ても気合いが入っているのが分かる。

 俺の状態はどうかな?

 気合いは充分。身体も問題なし。

 よし! それじゃ行きましょうかね!

 俺とマルスは学園に向かって歩き出した。



 教室に着いた俺達は、こちらも空気がいつもと違う事に気がついた。

 こっちもピリピリしてるのかよ。


 ため息をつきながら教室内に入ると、席に座っていたクラスメイト達が一斉に俺達の方を見た。


 「うぉ! どうしたんだよお前ら?」


 さすがのマルスも驚いた様だ。

 席に着いた俺達はヒソヒソと、


 「みんな神経質になりすぎじゃね?」

 「そうかもなぁ。なんかピリピリしてるな。」

 「お前は能天気すぎるぞアレク。」

 「つってもなぁ。昨日まで鍛錬漬けだったから出来ることは全部やってきたし後は運次第だろ。」

 「大した自信ね。」


 セレスティアが皮肉を言いながら俺達の方へ歩いて来た。


 「おぉセレスティアか。おはよう。」

 「お前はまたそんな口調で。姫様相手にそんな口聞ける平民はお前だけだぞ。」

 「もう慣れたから別にいいわ。それよりも、あなた達は全然緊張していないのね。師匠とやらの教えかしら?」

 「それもあるけど、正直当日にバタバタしても意味ないだろ? 今までやってきた成果を出すだけだ。」

 「なるほど。何も考えていないと思っていたけど、そうではないようね。」

 「酷い言いがかりだな。俺だって色々と考えてるって。」


 セレスティアの中で俺のイメージは一体どうなっているんだろうか。

 そんな事を思っていると、セレスティアが席に戻る時に、


 「私も鍛錬を積んできたわ。あなたには絶対負けない。」

 「なんでそんなに俺を目の敵にするんだよ。」


 俺の問いには答えず、セレスティアは席へと戻った。

 何か嫌われるような事したかな?

 身に覚えのない事をひたすら考えていると、ロック先生が入ってきて教室内は静かになった。


 「お前らおはようさん。今から全員で集会所に行くぞ。」


 先生のその言葉に、全員が立ち上がり教室の外へ出ていく。

 俺とマルスも立ち上がり、クラスメイト達の波に混ざって行った。



 集会所に着くと、既に20人程同じ制服を来た人達がいた。


 たぶん2年と3年の先輩だろうとマルスが教えてくれた。

 先輩達は俺達の方を見て値踏みするような目を向けていた。

 なんか気分悪いなぁ。


 そんな事を思っていると、この前の合格発表の時に進行役をしていたナターシャさんが全員の前に現れた。


 「皆さんおはようございます。本日はソルジャー科全学年による大演習が行われます。それでは学園長からお話があります。学園長どうぞ。」


 今更だが俺達はソルジャー科なんだな。

 どうでもいい事を考えていると学園長が前に立ち、


 「諸君おはよう。今日は大演習を行うが、2年3年は去年も参加しているから有利な点もあるだろう。しかし、今年の1年も粒ぞろいだ。油断して足元を掬われないようにな。」


 相変わらず、覇気を纏いながら脅しめいた言葉を言う人だなぁ。

 学園長が胸ポケットから一枚の紙を取り出し、


 「それでは大演習のルールを説明する。まずは去年と違う所だが、去年は3人1組でチームを組んでもらっていたが、今年はチーム制を廃止する。」


 その言葉に先輩達はザワつき始めた。

 既に誰と誰がチームを組むとか事前に話し合っていたんだろうな。

 ザワついた空気の中、学園長が、


 「うるさいぞ貴様ら。説明は一度しか言わんからしっかり聞け。今年はソロ活動で誰が生き残るかを見せてもらう。舞台は変わらずシンシア大森林をモチーフにした演習場だ。演習中は我々教師陣が用意したトラップや召喚獣なども現れる。倒すなり逃げるなり好きにしてくれ。後、演習場に入る前に学園製の身代わり用クリスタルを持ってもらう。これは、致命的なダメージが与えられると割れて演習場の外へ放り出される事になっている。演習場も諸君らの攻撃ではビクともしないので、自分の実力を遺憾なく発揮して欲しい。」


 という事は、全力で攻撃しても死ぬことはないって事か。

 大演習は思っていた以上に楽しくなりそうだな。


 「なお、上位成績者には囁かだが景品も用意してある。皆の頑張りを見させてもらおう。」


 そう言い、学園長は去っていった。

 その後すぐにナターシャさんが前に立ち、


 「それでは只今より、こちらのゲートをくぐって演習場へと移動してもらいます。ゲートをくぐる前に先程お話のあったクリスタルを渡しますのでくれぐれも無くさないように。無くして大怪我を負ったとしても自分の責任になるので注意してください。」


 クリスタルは無くさないようにポケットに入れとかないとな。

 3年から順番にゲートをくぐっていっているのを眺めていると、


 「タイマン勝負らしいなアレク。今回も俺が勝つぜ。」

 「次に戦う事があったら負けねえよ。」

 「優勝は無理だからお前には勝ちたいよな。」


 マルスが頭を垂れながら言っているので、


 「なんで始まってもないのに優勝を諦めてるんだ? 先輩って言っても1年か2年先に産まれただけだろ?」

 「ほんと何も知らないよなお前。今の2年には、クラスパラディン目前の天才ソルジャーがいるんだよ。」

 「へぇ。そんな人がいるのか。」

 「あぁ。その人の名前はネクロスって言うんだ。その人に会ったらとりあえず逃げろ。それくらいしかアドバイスは言えん。」

 「お前はもう少し情報というものの重要さを知れカスが。」

 「そうね。無知な事は罪だわ。」


 俺達の会話に、セレスティアとフレイが混ざってきた。


 この2人って仲が良いのか?

 マルスを含めた3人で喋っている光景を見ながらふとそんな事を思った。


 「聞いているのかカス。わざわざ私達が教えているのに無視するのか? そんな使わない脳みそなら捨ててしまえ。」


 ……今日も毒舌は絶好調のようですね。

 少しへこんでいると、セレスティアが、


 「とりあえず悔しいけれど、ネクロス先輩と遭遇したら逃げる事をおすすめするわ。ほら、今からゲートに入る人がネクロス先輩よ。覚えておきなさい。」


 ゲートの方を見ると、銀色の長髪で身長の高い男子が入っていった。


 あれがネクロス先輩か。

 銀髪は1年にはいないから覚えやすいな。

 皆が警戒する実力か。どれ程なんだろうか。

 ダメなら逃げるけど少しくらい立ち会ってみたい。

 でも、上位に入る為には避けないといけなさそうだな。

 あぁー! もどかしい!

 どうするかは対峙した時に考えるか。


 そうこうしている内に、2年の人達も全員ゲートをくぐっていった。


 「それでは1年生の皆さん。順番にゲートをくぐってください。」

 「じゃあ先に行くぜ。みんな生き残って上位に入ろうぜ。」

 「当たり前だバカ。お前等2人を蹴落としてでも生き残ってやる。」

 「そうね。戦って負けたりしても恨みっこなしよ?」


 みんなが激励?のような事をしているので俺も何か言った方が良いのだろうか?

 少し考えた俺は全員の顔を見て、


 「まぁボチボチ頑張ろうぜ。」


 ま、緊張しすぎないようにこれくらいで良いだろ。すると、


 「少しはやる気だせよアレク。」

 「あなたと話していると緊張するだけ無駄だと感じるわ。」

 「やる気がないなら死ねアレク。」


 何故かため息をつかれたり、怒られたりした。

 なんでだよ! おかしいだろ。

 マルスから順番にゲートに向かっていくのを見送りながら、何故あんな反応が返ってきたのか考える俺だった。

 ダメだダメだ。今から本番なのに気落ちしてたら。

 最後の1人になった俺は、気合いを入れ直しゲートをくぐった。

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