第19話
ゲートをくぐった先の光景は、鬱蒼とした森の中だった。
なんかジメジメしているし嫌な感じだな。
そんな事を考えていると、周囲に響き渡る声で、
「全員配置についたか? それでは最後の説明が終わってから1分後、大演習を開始する。開始後に召喚獣が現れるが、すぐ近くで召喚された場合は運がなかったと思え。運も実力の内だな。今回のルールは至って単純。最後まで生き残ったものが勝者だ。現在は、開始前なので、全24名の生徒が森の各所に散らばっている。人数がある程度減ってきたらこちらからアナウンスするので参考にするように。説明は以上だ。諸君らの健闘を祈る。」
学園長から最後の説明が終わり、俺はまずは隠れれそうな場所を探すことにした。
森の中でのかくれんぼは、昔ソフィアとよくしたな。
そんな事を考えていると、ナターシャさんの声が聞こえた。
「それでは大演習を開始します。」
ビー!!!
森の中に響き渡る音。
どうやらこれが開始の合図だろうか。
さてと、今のところ周囲に気配はなさそうだがどうするか。
今は魔力に余裕があるが、終了時間を設定されていない以上、前半から飛ばしすぎたらダメな気がする。
気配察知はあまり得意ではないが、これも鍛錬と割り切って魔法はできる限り温存しよう。
方針を決め、自身の気配を抑えながら歩いていると前方から爆発音が聞こえた。
誰かが戦っているな?
俺はバレないように急いで向かった。
爆破音の付近に着き様子を伺うと、男子生徒2人が戦っていた。
見覚えのない顔なので先輩達なのだろう。
1人は短剣を持ち相手に近付こうとしており、もう1人は杖を持って魔法で迎撃している。
先程の爆発音は杖を持った方だろうな。
互いに武器を構え、膠着状態が続くと思っていたが、
「ただいま4名の生徒が脱落しました。残り20名です。」
演習場に響くアナウンスで一瞬杖の先輩の意識が逸れた。その瞬間、
「しっ!」
短剣の先輩が姿勢を低くした状態で突撃をする。
少し反応が遅れた杖の先輩は急いで杖を構えるが、既に短剣の先輩は懐に入っておりそのまま胸をバツ印に斬られた。
杖の先輩から血が吹き出し、膝から崩れ落ちる時に胸元が光り杖の先輩は消えていった。
たぶん身代わりのクリスタルが作動したんだろうな。
短剣の先輩は、剣を拭き周囲を警戒しつつも少し気が緩んでいるように見えた。
これってチャンスじゃないか?
俺は隙を見つける為に集中する。もちろん、周囲の警戒は忘れないが。
そして、短剣の先輩が剣を鞘に入れようと視線が外れた時、俺は先輩に向け駆け出していた。
飛び出した俺の足音が聞こえたのだろう。先輩は左手で剣を持ち、右手は俺の方へ翳していた。そして、
「ちっ!
何の魔法かは良く分からないが、恐らくは何かの属性の中級か上級だろう魔法が俺に向かって放たれた。
俺はニヤリと笑い、
「そのまま返すぜ先輩。
そして、先輩が放った魔法は俺に当たると同時に反射され先輩の方へ返っていった。
「くそっ! 反射の魔法か!」
悪態をつく先輩だが、不意打ちに加え魔法の反射、咄嗟にそこまで反応は出来ずモロに喰らった。
吹き飛びながら身体を切り裂かれていくのを見た所、たぶん風属性なのだろうな。
俺はそのまま先輩を追い、倒れている先輩へ剣を刺した。
「ぐわっ!」
心臓を刺された先輩の身体が光り消えていった。
「よし! まずは1人!」
ガッツポーズをした俺は、そのまま周囲を警戒しその場を離れた。
不意打ちとはいえ、上級生を倒せた。
この1ヶ月の鍛錬で俺は戦えるようになっている。
万全のコンディションで初めて戦った結果は満足のいく内容だった。
「ただいま6名の生徒が脱落しました。残り18名です。」
思ったよりもペースが早いな。
マルス達は生き残ってるんだろうな?
少し心配になりながらも、俺は次のターゲットを探す為、森の中を歩いて行った。
☆
〜マルスside〜
「のわぁぁぁ!」
俺は今、全力で逃げている。
何から逃げているかって?
あいつらだよ。
俺はチラッと後ろを確認した。すると、
「ガアァァァ!」
雄叫びを叫びながら、大きな棍棒を振り回した大男が迫ってきていた。
開始の合図が鳴った後、少し歩いていると前方から木が倒れていく音が聞こえた。
トンファーを構え様子を見ていると、大男が棍棒で木をなぎ倒しながら迫って来る。
おいおいおい! 猪かよ!
俺は安全な距離を確保しながら大男に声をかけた。
「少しは落ち着けよ! な?」
「ガアァァァ!」
「聞いちゃいねえ!」
近くで見た男は、筋肉が盛り上がっており、目が血走った状態で走って来る。
完全にイカれてやがる!
ひとまず俺は距離を取るために逃げ出した。
さすがにあの筋肉で振り回してる武器なんか当たったら一溜りもない!
まずは自分の得意な場所を探さないと!
男から逃げ続けていると、前方に少し開けた所が見つかった。
あそこでやってやる!
俺は全力疾走で広場に出た。その時、
「うおっ!」
俺のすぐ隣の木に1本の矢が刺さった。
この忙しい時に新手かよ!
「ウガアァァ!」
後ろからはイカれた男が迫ってきて、前方には弓矢の狙撃手。どうする?
俺は矢の刺さり方を確認し、狙撃手がいるであろう方向へ駆け出した。
矢が前方から飛んでくるが、まだ距離があるのと飛んでくる方向が分かっているのでなんとか回避は可能だった。
しかし、避けるたびに後ろの男との距離が詰められる。
男が俺に攻撃をしようと棍棒を振り上げ、更には狙撃手の矢が飛んできた。
前後からの同時攻撃がきた時、俺は顔がニヤけた。
「今だ!
男は俺を見失っており、一瞬俺を探す為に動きが止まった。
そして、動きが止まった男の左肩に見事矢が刺さる。
「ギャアァァァ!」
男は矢を抜くと、狙撃手を探すために暴れだした。
矢が次々と放たれ男に刺さっていくが、痛みを感じないのか男はどんどん狙撃手に向かって走って行く。そしてとうとう、
「くそっ! これだから
木の上から狙撃手の男が降りてきて逃げようとする。
「逃がさねえよ!」
2人の注意が俺から外れた時、俺は全力で走って狙撃手の男を殴った。
「ぐはっ!」
良い所に当たったのだろう。頭に当たって吹き飛びそのまま消えていった。
狙撃の心配がなくなった所で、俺は棍棒の男の方を向き構える。
男は理性がなくなっているのか、単純に真っ直ぐ走って来ているだけだ。
棍棒を上に振り上げたタイミングで俺は懐に潜り込み、トンファーで腹を何発も殴った。
さすがに男は耐えれず膝を着いた。
完全に隙だらけの状態だったので、そのまま顎に向かって下からトンファーを振り上げた。
「ごはぁ。」
口から血を吐きながら男は仰向けに倒れていく。
「最後にオマケだ!」
男の顔に向かって飛び上がった俺は、男の口にトンファーを突っ込んだ。
トンファーを抜くと、完全に白目を向いた男が消えていった。
「ただいま4名の生徒が脱落しました。残り20名です。」
後20人か……。まだまだ先は長そうだな。
俺は体力を回復する為に座り込んだ。
「ふぅ〜。さすがに先輩達との戦闘は疲れるな。アレクのやつはちゃんと生き残ってるだろうな?」
まぁあいつも鍛錬頑張ってたし、師匠は剣聖なんだから大丈夫か。
それよりもまずは自分が生き残る事を考えないと。
俺は空を見上げながらそんな事を考えていた。
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