第17話
寮へと戻り、木剣を持って門の前で立っていると、
「すまんすまん。用事があって来るのが遅れた。」
「いえ、大丈夫ですよ師匠。」
「ってなんだその顔? 誰かからビンタでもされたか? 綺麗に跡が残ってるぞ?」
先程あった出来事を説明すると、師匠は爆笑して、
「ははははっ! そんな事があったのか! セレスティア様はウブだな。青春してるじゃないか。」
「いやいや、殴られ損ですよ。それに、青春の意味がよくわかりませんけど今の俺は強くなる事しか考えていませんから。」
そう返事をすると、師匠は俺の両肩を掴み、
「ひとつ良い事を教えてやろう。男ってのはな、守るものがある奴の方が強くなれるんだぞ。」
「え? なんでですか?」
「まぁいずれ分かる時がくるさ。さて、鍛錬を始めるか。今日の授業はどんな内容だったんだ?」
俺は師匠に授業内容を説明し、
「
「プリン先生を知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、あいつは俺の同期だぞ。」
え? 師匠と同期? あの見た目で?
衝撃の事実だったので俺が目を開いて驚いていると、
「あの見た目だからな。そんな反応になるのも仕方ないさ。そんな事より時間が勿体ない。さっさとやるぞ。」
「はい!」
「お前が魔力を使えるのは分かったから、まずはこの前話していた飛斬を習得する。その後に魔法剣を教えるからまずは飛斬と魔法剣をマスターしろ。」
師匠から鍛錬の流れと、飛斬の使用方法を教えてもらい実践する。
えーっと、剣に魔力を流しその後剣を振るだったな。
実際やってみないと分からないと思い、剣に魔力を流していく。
すると、剣全体にモヤのようなものが現れ、剣を包み込んだ。
その状態で剣を振るうと、少し歪な形の斬撃が飛んでいった。
「少し形は悪いが今のが飛斬だ。今のを瞬時に出せるようになって初めて使えるようになったと認めるから今日は魔力が切れる寸前まで飛斬を練習するぞ。」
その後、数時間師匠と共に飛斬の練習を行い精度を高めていった。
師匠曰く、俺の魔力量は人よりか多いそうで、思ったよりも早いペースで進んでいるとの事だった。
ちなみに魔法剣については、飛斬を習得してからと話はついた。
早く戦闘で使えるレベルまで鍛え上げないとな。
今日は、師匠に新しい朝の鍛錬メニュー表を渡されその内容に驚きつつ師匠と別れた。
さてこれから忙しくなるぞ。
自室に戻った俺は、これから大演習までの日々を想像しながらベッドで眠りについた。
☆
〜セレスティアside〜
頬をビンタした事を謝ろうと、私は彼を探しに歩き回っていた。
どこに行ったのかしら?
探しても見付からず、校門の前で立ち止まり考えていると、
「セレスティア様? こんな所で何をしてるんですか?」
誰かに声をかけられたので、声のする方を見ると、マルスくんが立っていた。
「マルスくん。あなたといつも一緒にいるあいつはどこにいるかわかるかしら?」
「あいつってアレクの事ですか? この時間なら、寮で鍛錬していると思いますよ。」
「わかったわ。ありがとう。」
どんな鍛錬をしているのか気になるわね。
私は両親に認めてもらう為、誰にも負けられないの。
だから、謝るのが目的なのは変わらないけれど、鍛錬を見させてもらうわ。
新たな目的が見つかり、足早に男子寮へと向かった。
男子寮に着き、管理人にあいつの場所を尋ねると、師匠と呼ばれている人と中庭で鍛錬していると言われた。
どんな師匠なのかしら? あいつは確か平民よね。
申し訳ないけれど、そんな高額なお金を持っていなさそうなのよね。
有名な人が師匠とは思えないわ。
私は何故か見つからないようにコソッと物陰から中庭を覗いた。するとそこにいたのは、
「ほらほらほら! まだガードが甘い! 俺の攻撃を予測しろ!」
「ちょっと師匠! 少しは手加減を。」
「これでも充分手加減しているぞ!」
なんと、あいつの師匠はあの剣聖だったのだ。
なんで剣聖のリベットさんがあいつに? どんな繋がりなの?
予想していなかった光景に、私は隠れている事を忘れずっと見ていた。
すると、リベットさんがこちらに気付いたのだろう。あいつの剣を弾き飛ばし、
「とりあえず1本だ。少し席を外すから筋トレでもしとけ。」
後ろでブーブー言いながらも大人しく筋トレをしているあいつを置いて、リベットさんは私の方に歩いて来た。
「珍しいお客さんだ。どうしましたセレスティア様? 何か御用ですか?」
「い、いえ。急にすいません。今日学校で怪我をする所をあいつに助けて貰ったのに、頬にビンタをしてしまったからお詫びに来たんです。」
「なんだ、そんな事か。別にあいつは気にしてませんから謝る必要はないですよ。」
軽く話をしながら、私がソワソワしているのを分かっているのか、少しニヤニヤしながらリベットさんが、
「それで? 用件はそれだけですか?」
「相変わらず嫌味な性格ですね。どうしてあいつを鍛錬しているのですか?」
「それは俺が師匠だからですよ。」
「はぐらかさないでください。」
ジト目でリベットさんを見ていると、苦笑しながら、
「とある任務の時に、あいつの故郷の村に立ち寄ったんですよ。その時に弟子入りを志願してきたので弟子にしました。」
「私が王宮で依頼した時は断ったくせに。」
「はははっ! 姫様がヤキモチですか。まぁ、俺は弟子を取るつもりはなかったですからね。あいつの熱意と才能に負けましたよ。」
あいつにそんな才能が?
申し訳ないけれど、実践授業を見ている感じはそこまで実力がある様には見えない。
理解に苦しむ様な表情の私を見てリベットさんが、
「あいつには強くなりたい動機と、努力し続けれるという才能があります。姫様からしたら些細な動機ですけどね。俺はあいつならパラディンまで上り詰める事が出来ると思っていますので。」
「私より才能があると?」
少し苛立った感じで言うと、リベットさんは1枚の紙を私に渡してきた。
紙の内容を見ると、そこには有り得ない量の鍛錬メニューが書かれていた。
それを見た私は、驚いた表情でリベットさんを見た。
「それはあいつが入学してから毎朝こなしているメニューです。授業中に動きが悪く見えたのは、恐らく身体を虐め抜いたせいによる筋肉痛だからでしょう。今度の大演習の時にあいつの本当の実力が分かりますよ。」
本当に毎日これだけのメニューを……。
驚いている私にリベットさんが笑いながら、
「入学当初は姫様の方が実力は上でしたけど今はどうでしょうね?」
「ふん! 私の方が強いに決まってます!」
紙を投げ返し、私は女子寮へと戻ろうと歩き出した。
今のままじゃダメ。
もっと強く……。まずは学園で最強にならないと。同級生なんかに負けられない!
決意を新たに私は男子寮を出た。
☆
〜アレクside〜
それからというもの、俺は午前中の座学に苦戦し午後の魔法学と戦闘学の授業は飛斬を使わず身体能力だけで参加していたが、毎日の鍛錬で苛め抜いた身体は思い通りに動かず、連戦連敗だった。
その結果、クラスでも俺と組んで授業に参加してくれる心優しい人は、マルスと学級委員長的な位置になっているフレイの2人だけだった。
しかしこのフレイという女子生徒。実際に話をすると、
「早くするぞゴミ。時間がもったいない。」
「なんでそんな簡単な事が出来ない? 一度頭の中を入れ替えてこい。」
と、こんな風にとんでもない毒舌なのである。
知り合った当初は控えめだったのだが、今では容赦なく毒を吐いてくる。
俺もマルスもボロボロになった時に、もう少し優しい言葉遣いは出来ないのか? と尋ねた事があった。
その問いに対しての返答が、
「クラスでもハブられているお前達の相手をするだけ優しいだろ? 感謝の言葉もなく非難するのはお門違いとは思わないのか?」
なんとも言い返しにくい返答が返ってきて結局うやむやになった。
そんな日々を過ごしながら1カ月の月日が経った。
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